研究概要 |
分化させた細胞から、ES細胞に近い性質を持つ人工多能性幹(iPS)細胞を作ると、体内時計のリズムが消え、細胞の分化と体内時計の形成か密接に関係していることが明らかにされている(Yagita et al.,PNAS 2010)。本研究では、未分化細胞であるES細胞が、体内時計のリズムを刻んでいないのと同様に、悪性度の高い未分化ながん細胞ほど、体内時計が喪失しているのか明らかにする。この研究により、体内時計の形成度が、がん細胞の悪性度を測る一つの指標になりえ、さらに、体内時計形成の解明が、がん細胞を含めた「分化・発生」の統合的理解の糸口になる可能性がある。 本年度において、以下のような成果をあげることができた。(1)数種類のヒト神経芽腫において、概日リズムを調べた。時計遺伝子であるBmal1遺伝子とDbp遺伝子のプロモーター下流に発光レポーターであるルシフェラーゼを挿入したものをレポーターとして用いた。また、安定な発現株を得るために、トラスポゾンベースのベクターを用いて、ゲノムに挿入した。光電子増倍管を用いた多細胞レベルの観察と冷却CCDカメラと顕微鏡を用いた1細胞レベルの観察により明らかにした。リズム度を定量するためには、スペクトル解析を行った。その結果、正常細胞に比べ、ヒト神経芽腫では、大きく乱れている細胞株から、あまり乱れていない細胞株まで様々であることがわかった。(2)さらに、これらの細胞株の中から、リズム度の低い細胞株を用いて、細胞分化へと誘導する薬剤処理を行った。これは実際の治療にも用いられる方法である。その結果、リズム度を大きく回復させることができた。このことは、体内時計形成度が、癌悪性度を測る一つの指標となり得ることを示唆する。
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