本研究の最終目標は、歯根周囲に生じた病変に対する治療において慢性炎症を制御し骨形成を促進する治療法の確立である。最終目標達成に向け、本研究では炎症抑制効果のあるBAY11-7082を徐放するシステムを構築しin vitroおよびin vivoで明らかにすることを目的としている。 まずNF-κB選択的阻害剤BAY11-7082の徐放システムの構築を目指す前に、同じくNF-κBを阻害するステロイド剤の骨形成への影響を検討した。βグリセロリン酸およびアスコルビン酸を添加することで石灰化能を誘導したマウス骨芽細胞株MC3T3-E1細胞を炎症性サイトカインTNFαで刺激した。その際、ステロイド剤であるデキサメサゾンを加え、石灰化能に関与する細胞内分子の発現・活性化を検討したところ、TNFαによって抑制された骨芽細胞の初期分化マーカーであるアルカリホスファターゼ(ALP)活性が、デキサメサゾン濃度依存的に解除された。 さらに、同じくNF-κBシグナルを阻害するステロイドコアクチベーターであるMTI-II(Macromolecular Translocation Inhibitor II)に着目し、炎症抑制効果についての検討も行った。ヒト骨肉腫細胞MG63にMTI-IIを遺伝子導入し、炎症性サイトカインTNFαで刺激後のNF-κBの転写活性を測定した結果、MTI-II濃度依存的にNF-κBの転写活性が抑制されることがわかった。また、NF-κBの標的遺伝子であるMMP-9の発現を検討したところ、MTI-IIを遺伝子導入するとTNFαの刺激によって上昇したMMP-9の発現が解除された。以上の結果は、MTI-IIが抗炎症剤として有効であることが示唆している。
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