研究概要 |
口腔乾燥症治療薬としてセビメリン, ピロカルピンといったムスカリン性レセプター刺激薬が臨床応用されている. いずれの薬剤も唾液腺に作用し直接唾液分泌を引き起こすが, 十分に奏効しない症例も存在する. そこで申請者は上記治療薬に加え, 温度刺激や浸透圧刺激といった物理刺激を組み合わせることにより唾液分泌量が上昇することを明らかにしてきた. この現象には唾液腺組織, 唾液腺細胞のメカノバイオロジーが大きく関わっていると考えられるが, 不明な点も多い. 本研究は, マウス顎下腺灌流モデルと蛍光免疫染色法およびウエスタンブロッティング法をそれぞれ組み合わせ新規実験モデルを確立し, これまで不明であった物理刺激の唾液腺膜タンパク質に及ぼす影響を解明し, メカノバイオロジーを利用した口腔乾燥症治療法の新開発を目指したものである.具体的にはマウス顎下腺Ex vivo潅流実験の潅流液を低浸透圧にしたものを潅流させ,ムスカリン性レセプター刺激薬を添加して唾液分泌を促した.その後唾液腺を固定液に浸し蛍光免疫染色法を行い.組織切片を作製してAQP5やNKCC1の発現を等張液で潅流したコントロール群の顎下腺と比較した. その結果,低浸透圧下でのムスカリン性刺激後の顎下腺ではAQP5,NKCC1ともに発現頻度が高くなっていた.これまでのマウス顎下腺Ex vivo潅流実験により低浸透圧下では顎下腺細胞中のNKCC1は直接的に活性化を受けていることが明らかになってきていることから,免疫染色でもこのことが証明されたと考えている.現在のところチャネルを直接的に活性化する口腔乾燥症治療薬は開発されておらず.NKCC1をターゲットとした口腔乾燥症の新規治療薬の開発にこれらの結果が役立つものと考えられる.
|