本研究は統合失調症モデルマウスに臨床用量を反映した抗精神病薬(ヒト線条体ドーパミンD2受容体占拠率が65~80%)の慢性投与を行い、行動障害への作用を検討すること、またアミノ酸配列から設計・合成する特異的定量用ペプチドとLC-MS/MSを用いた脳内タンパク質における定量プロテオミクス系を構築し、抗精神病薬の作用機序を探索することを目的とした。まず動物モデルの表現型解析を行うため、精神疾患に関わる行動実験系を立ち上げた。次に、構築した行動実験系を用いて、統合失調症動物モデルとして統合失調症脆弱性遺伝子と考えられているDISC1に点変異をもつDISC1 L100Pマウス、フェンサイクリジン(PCP)を慢性投与したマウス(投与スケジュールの異なる2種類)の計3種類の行動表現型を解析した結果、PCP2週間慢性投与マウスが本研究の基盤として適切なモデルマウスであることを見出した。次に、PCP2週間慢性投与マウスが示す低用量PCPに対する反応性増大作用は長期休薬後にも持続すること、線条体でのドーパミンD2受容体70%占拠を維持可能なように調製した抗精神病薬を浸透圧ポンプで慢性投与すると、ハロペリドールで抑制傾向(p = 0.056)、オランザピンで有意に対照群と同程度にまで抑制されることを見出した。さらに、可溶性画分・膜画分を調製する実験系および神経伝達物質受容体、シグナル伝達分子、シナプス関連分子等に特異的な定量用ペプチドの作成、LC-MS/MSを用いた多検体タンパク質同時定量系を構築した。現在、上記行動障害と抗精神病薬による改善作用を規定するタンパク質群を探索している。
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