KLF4は細胞の増殖・分化に関与する重要な転写因子であり、生体においては上皮組織での発現が報告されている。さらにKLF4は「山中因子」の一つであり、iPS細胞を誘導する際に重要な役割を果たし、間葉上皮変換(MET)を惹起することが報告されている。再生の分野の基礎検討ではKLF4の研究は非常に注目されている一方、腎糸球体上皮細胞(ポドサイト)におけるKLF4の役割について報告はない。 本検討では、KLF4が糸球体上皮細胞に発現していることに初めて着目し、その役割について検討を行った。Tet-on トランスジェニックシステムを用いてIn vivoでKLF4を腎糸球体上皮細胞特異的に過剰発現させると、KLF4の誘導を中止した後にも持続的な尿蛋白改善効果を認めた。免疫染色やウエスタンブロットの結果から、KLF4誘導によりポドサイトの上皮マーカー(ネフリン、ポドシン、シナプトポジンなど)の発現が改善し、逆に間葉系マーカー(ビメンチンなど)の発現が低下すること(ポドサイトの間葉上皮変換)、KLF4誘導終了後も変化が持続することから、KLF4がポドサイト形質を調整している可能性が示唆された。これはヒト培養ポドサイトにおいてIn vitroでKLF4を糸球体上皮細胞に誘導する系でも確認された。またヒト腎生検検体を用いた解析においても、糖尿病性腎症、FSGS、微小変化群等のポドサイト障害を来たす腎炎において、ポドサイトのKLF4発現は低下していた。これらの結果は、学会において発表し受賞の対象となった(日本腎臓学会会長賞、日本高血圧学会Top10演題選出など)。 今後さらにKLF4のポドサイト形質調節メカニズムを検討することにより、蛋白尿治療の新たな視点が得られることが期待される。
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