本年度は最終年度として、慢性心不全患者のヘルスリテラシーと自己管理行動やQOLとの関連、慢性心不全患者のヘルスリテラシー低下のハイリスク要因の検討を行った。慢性心不全患者189名を対象に、前年度に作成した慢性心不全患者のヘルスリテラシー尺度に加え、セルフケア行動(ヨーロッパ心不全セルフケア行動尺度日本語版)、抑うつ症状(Self-rating Depression Scale)、心不全に関連する知識の評価尺度、QOL(ミネソタ心不全QOL質問票)を評価した。年齢、性別などの人口統計学的データ、基礎心疾患、重症度、薬物治療内容などの医学的データも収集した。 心不全患者のセルフケア能力やQOL低下に関連する要因を分析した結果、情報を批判的に吟味する能力である「批判的ヘルスリテラシー」は、セルフケア能力低下の重要な規定因子であることが示された。さらに、このヘルスリテラシーの低下は、心不全患者のQOL低下とも関連しており、特に批判的ヘルスリテラシーの低下はQOL低下と強く関連していることも明らかとなった。このような結果は、ヘルスリテラシーの向上が、心不全ケアの重要な課題であることを示唆していると考えられる。 さらに、ヘルスリテラシー低下のハイリスク要因を検討した結果、男性、低い経済状況は、ヘルスリテラシーの低下要因であることが認められた。しかしながら、高齢、心不全の重症度、罹患期間との関連は認められなかった。さらに、抑うつ症状とヘルスリテラシーとの関連も認められなかった。 本研究の結果から、ヘルスリテラシーは心不全患者のセルフケア能力やQOL向上に重要な役割を果たす可能性が示唆された。今後は、ヘルスリテラシーを向上させるための、効果的な看護介入の構築を進めていく必要がある。
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