研究概要 |
Niイオンの濃度と作用時間を様々に変えて行った実験から、その効果が濃度および時間依存的に増強することが解った。HSC3細胞におけるIL-8の自発的産生は転写因子NF-κBが恒常的に活性化しているためと考えられる。そこでNiイオンがNF-κB活性にどのような影響を及ぼすかということに関してluciferase assayにより検索した結果、NiイオンはNF-κBの活性を阻害することが判明した。また、NiイオンのNF-κB活性の減弱のメカニズムについて、Western blot法により検索した結果、NF-κBのサブユニットp65のリン酸化には、Niイオンの影響は見られなかったがp50では大幅なリン酸化の抑制が見られた。さらに、Dpn I 法を用いた遺伝子組み換え実験において、Niイオンの結合には、N末端から、108,110, 112番目のヒスチジンが強く関連していることが示唆された。 Niイオンはグラム陰性菌の菌体外多糖であるlipopolysaccharide (LPS)のレセプターであるTLR4の細胞外領域に結合することが報告されている。TLR4のNiイオンの効果への関与についてNiイオンのIL-8産生抑制効果がTLR4を介するものであるか否かを検討する目的で、HSC3細胞を抗TLR4抗体またはコントロール抗体で前処理し、Niイオンの効果がどのような影響を受けるかということについて検討した結果、両者においてIL-8の分泌に差はみられなかった。。さらに、TLR4の発現をsmall interfering RNA (siRNA)をtranasfectionすることにより抑制し、この状態におけるNiイオンのIL-8産生抑制効果について検索しても顕著な差は認められなかった。この結果よりNiイオンによるIL-8産生抑制効果にはTLR4を介さない独立したプロセスの存在が示唆された。
|