研究概要 |
申請者の所属する研究室では、持続可能な化学的手法の実現を目的として環境に優しい超原子価ヨウ素反応剤を用いる新規C-C、C-N、C-OおよびC-S結合形成反応の開発を行っている(J. Am. Chem. Soc., 1994, 116, 3684; Tetrahedron, 2001,57,345; Tetrahedron Lett., 2002,43,9241.)。近年ではその一環として医薬品や機能性材料開発に重要なビアリール化合物の開発に精力的に取り組んでおり、ごく最近、ヨウ素反応剤と基質の親和性を制御することにより、単純なアルキルアレーン類を基質として、これまで困難であった芳香族化合物同士の酸化的クロスカップリング反応が高選択的に進行することを見出した(Angew. Chem. int. Ed.,2008,47;1301.)。また、導電性材料の原料となり得るチオフェンやピロール類等のヘテロ芳香族化合物についても、安定なヨードニウム塩中間体を経る新規直接的手法によるクロスビアリール体合成法を報告している(J. Am. Chem. Soc., 2009,131,1668; Angew. Chem. Int. Ed., 2010,49,3334)。 昨年度は、上記のアルキルアレーン類の酸化的クロスカップリング反応を、フェニルエーテル類へと拡張することに成功した。(Org. Lett.,2011,13,6208.)フェニルエーテル類は、アルキルアレーン類に比べてホモカップリングや過剰酸化を起こしやすい基質であるが、ヨウ素反応剤の構造を最適化することによってそれらの副反応を起こすことなく反応が進行することを明らかにした。本手法によって、天然物によく見られる有用な酸素官能基を持つビアリール類を、金属を一切用いずに一段階で合成することが可能となった。また本手法は様々な官能基を持つ基質に適用することができ、その特徴を活かして実際に天然物由来の含窒素縮環型骨格を簡便に合成することにも成功した。
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