移植医療の著しい進歩に相まって、臓器移植患者(レシピエント)の妊娠・出産も増加しているが、臓器移植後の妊娠・出産に関する看護支援についての既存の研究は乏しく、レシピエントの心理的側面に焦点を当てた研究は国内外ともに行われていないのが現状である。臓器移植後のレシピエントがより安全に安心して妊娠・出産ができるよう支援する必要があり、臓器移植後に妊娠・出産を経験したレシピエントの体験と心情の解明が期待される。本研究では、我が国における腎移植後に妊娠・出産を経験したレシピエントの体験と心情を質的に明らかにすることを目的としている。 平成24年度は、腎移植後に妊娠・出産を経験したレシピエントへのインタビューデータをもとにライフヒストリーを構成した。<疾患罹患から腎移植に至るまで><腎移植後から妊娠までの時期><妊娠から出産までの時期><出産後から現在までの時期><現在という時間>の5つの時間に着目し、質的帰納的に分析を進めた。 <出産後から現在までの時期>においては、育児中の腎移植レシピエントの体験として≪子どもがいる幸福≫≪自分が腎移植レシピエントであるがゆえの気がかり≫≪出産後度重なる身体の不調≫≪子ども中心の生活で不十分な健康管理≫≪子どものために避けたい入院≫≪必要とする医療的サポート≫≪周囲に支えられている自分≫の7カテゴリーが抽出された。 移植前は子どもを授かることをあきらめていたレシピエントは、移植によって、子どもを産み、育てることができたことに感謝し、生きがいを感じていた。一方、多忙な子育てにより健康管理が不十分となり、腎臓が悪くなることへの不安や恐怖を抱いていた。子どものために健康でありたいと思う気持ちが、レシピエント自身の健康管理行動につながるよう支援していく必要があると考える。
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