子育てをめぐる社会環境が、親の健康や子どもの健康・発達にどのような影響を及ぼすのか。個人化と社会的なつながりの希薄化がすすむなかで、日韓両国において低出産率に加えて、育児不安、産後うつ、児童虐待などが社会問題となっている。本研究の目的は、従来、医学、心理学、社会学などにおいて個別に扱われてきた育児をめぐる社会環境と親の健康・子どもの発達との関係を、日本と韓国における都市生態学的要因やソーシャルネットワークに着目して解明することにある。 日本側の調査対象地域として福岡市を検討していたが、福島第一原発事故後、放射能への不安が高まるなかで母子を取り囲む社会環境と健康が焦点化していることを踏まえて、福島県の母子を研究対象とすることにした。そこで、福島県内の幼稚園・保育園の保護者や関係者(園長、保育士など)、母親サークルの参加者(親子)、市町村の子ども福祉課・保健福祉課などへの聞き取り調査と資料収集を経て、2013年1月から、福島市、郡山市など福島県中通り9市町村に在住する3歳児全員(約6200人)を対象に、原発事故後の生活が親子の健康状態、精神的苦痛、子どもの行動・発達に及ぼす影響関係を解明するための社会疫学調査を実施した(回収率42%、回収総数、2608人)。現在、福島データと2012年3月に韓国大邱市の幼稚園・保育園児を対象に実施した調査データを比較検討し、日韓の母子を取り囲む社会環境(育児環境評価HOMEなど)と育児支援ネットワークの相違とそれが母子の健康・発達に及ぼす影響について分析を進めている。
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