上皮細胞特有の膜タンパク質輸送因子であるAP-1Bを欠損したマウスでは、大腸上皮細胞の生体防御機能が低下し、また上皮細細胞間Tリンパ球(IEL)の数が全てのサブセットで著しく減少している。本研究の最終目的は、その原因の分子メカニズムの解明である。本年度は、上皮細胞の生体防御機能低下の解明の為に、in vitroでの実験系の確立を行った。ヒト腸管上皮細胞株であるT84とCaco-2におけるAP-1Bの発現を、shRNAにてノックダウンし、両者共に数クローンのAP-1B欠損株の樹立に成功した。AP-1B欠損株では未刺激の状態でも、上皮細胞の重要な生体防御機能であるα-defensinの発現が著しく低下するなど、AP-1B欠損マウスから単離した上皮細胞と似た表現型を示した。このことから樹立したAP-1B欠損株は成体の上皮細胞における応答をよく反映していると考えられ、研究ツールとして非常に有望である。また、IELの著しい減少がT細胞自身の分化の異常でないことを示す為に、胸腺からT細胞を単離しフローサイトメトリーで解析を行った。その結果、AP-1B欠損マウスでもT細胞は正常に分化していることが判明した。またIELが存在する上皮層の、直下にあたる粘膜固有層におけるT細胞の細胞集団、さらには腸管の所属リンパ節である腸間膜リンパ節におけるT細胞の細胞集団も全く正常であった。従ってAP-1B欠損マウスにおけるIELの減少は上皮層へのT細胞のリクルート、もしくは上皮層における細胞集団維持に異常が原因である可能性が示唆された。全てのIELサブセットが著しく減少する遺伝子改変マウスは現在まで報告がなく、本AP-1B欠損マウスのIEL減少の分子メカニズムを明らかにすることは、上皮細胞がIELという細胞集団をそこに維持する為の、最も重要かつ基礎となる重要知見をもたらすと考える。
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