研究概要 |
双極性障害では、一卵性双生児における発症一致率は高いが100%ではなく、DNAメチル化状態やヒストン蛋白修飾状態などエピジェネティックな要因の関与が考えられる。申請者らは、双極性障害のエピジェネティック要因の探索のため、一卵性双生児不一致例においてゲノム中の全プロモーター領域におけるDNAメチル化解析を行い、抗うつ薬の標的分子で、気分障害との関連が強く示唆されているセロトニントランスポーター遺伝子(SLC6A4)のDNA メチル化差異を見出した。さらに本研究において、培養リンパ芽球、リンパ球、口腔粘膜、および死後脳における症例対照研究により、この所見の病態生理学的意義について検討すると共に、双生児におけるDNA メチル化差異の基盤として、ゲノム差異が存在するかどうかについての確認を行った結果、罹患双生児で見られたSLC6A4の高メチル化は、リンパ芽球を用いた症例対照研究で確認され、特に、SLC6A4のHTTLPR(serotonin-transporter-linked polymorphic region)遺伝子型がS (short)/S型の者のみでメチル化と遺伝子発現量が逆相関し、発現量はS/S型の患者のみで低かった。更に死後脳においても、双極性障害におけるSLC6A4の高メチル化が確認され、これらの研究内容をまとめ、国際雑誌で発表した(Sugawara, et al., Translational Psychiatry 2011)。 また、申請者はこの研究において、一卵性双生児双生児不一致例という貴重な対象に、最先端のエピゲノム解析技術を駆使して取り組み、遺伝環境相互作用を分子レベルで明らかにしたことが高く評価され、下田光造賞第一号受賞者となった。
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