難聴モデルマウスの研究成果はヒトの難聴原因遺伝子の同定に大きな貢献を果たしている。本研究は新規Myosin VI (Myo6) 突然変異アレルによって、行動異常および完全難聴を示すksv (Kumamoto shaker/walzer) の発現解析を行なうことにより、新規ヒト難聴モデルとしての評価することを目的として研究を実施し、以下の結果を得た。 1)MYO6のC末端側を認識する抗MYO6抗体を用いた発現解析を実施した結果、Myo6ksvにおける発現は野生型に比べ、およそ70%の減少が認められた。野生型におけるMYO6は、有毛細胞において一様に発現し、特に、細胞間結合部の周縁線維状帯、および感覚毛の結合部であるクチクラプレートに強い発現が認められた。一方、Myo6ksvマウスにおいても有毛細胞におけるMYO6の発現は認められたが、クチクラプレートにおける発現はほぼ欠損し、野生型では検出されない感覚毛での散在したシグナルが認められた。 2)MYO6との相互作用が示唆されるPTPRQを認識する抗体を用いて有毛細胞における局在を調査した結果、有毛細胞の感覚毛基底部特異的に局在が認められた。一方、Myo6ksvにおける局在は野生型と異なり感覚毛一様にシグナルが検出された。 3)前年度に引き続き、ksv突然変異アレルをB6およびC3H系統の遺伝的背景への導入を継続し、突然変異部位の遺伝子型判定により、突然変異アレルヘテロ個体において戻し交配を継続した結果、B6遺伝的背景第11世代およびC3H遺伝的背景第7世代まで進行した。加えて、第8世代のB6遺伝的背景のksvヘテロマウスはB6が保有する加齢性難聴の発症時期とは異なり、早期加齢性難聴を示すことが明かとなった。
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