研究概要 |
本研究では網膜Mullerグリア細胞にcreが発現するhuman GFAP-cre mouseを活用した(Zhu et al. Development, 2005)。そして網膜における主要な神経栄養因子であるBDNFの受容体であるTrkBに注目し、TrkB flox/flox : GFAP-Cre mouseを完成させた。一方で網膜神経節細胞とアマクリン細胞から神経特異的にTrkBが欠損するTrkB flox/flox : ckit-Cre mouseを作成し、両者の神経保護能の違いをin vivoで検討した。その結果意外なことに、これら2種類のKOマウスでは、グルタミン酸毒性による網膜神経節細胞死は同程度であることがわかった(Harada et al., Nature Communications, 2011)。またTrkB flox/flox : GFAP-Cre mouseにおいては、BDNFが薬物投与による視細胞変性を抑制できないだけでなく、野生型マウスでは観察されるMuller細胞の増殖や視細胞マーカーの発現(Muller細胞から視細胞への分化転換)も観察されなかった。これらの結果は、Muller細胞におけるBDNFシグナル伝達が神経保護と再生の両面において、重要な役割を持つことを示している。またこの遺伝学的モデルは、中枢神経系組織のグリアとニューロンで特異的に働く遺伝子の機能を、in vivoで調べられる系を提供している。以上のように本研究ではグリアと神経栄養因子の機能の新たな側面について、今後の参考となる大きな知見を得ただけでなく、今後の研究で使用する重要なKOマウスの作成と利用に道筋をつけることができた。
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