研究概要 |
PISAの調査(OECD,2006)によれば,日本の中学生の科学を学ぶ意義や有用感が国際平均より低く,その改善が重要な課題となっている。そのためには,中学生に対して理科の授業と日常生活や最先端技術との関連を図る授業実践が必要である。例えば,人体の学習ではこれまで健康体のみを扱ってきた。しかし,加齢による疾患を学習することは,いつの日か自分の身に降りかかる可能性のある病気を知るだけでなく,対象となる部位の詳細な働きを理解する機会になると考える。 そこで,加齢変化の科学的理解を取り上げることによって,学習の有用感を高め,理科学習の内容理解と高齢者理解を深めることを目的として,中学校の理科において,ジェロントロジー教育を実施した。 その結果,(1)理科学習の有用感が向上したこと,(2)正常な器官の働きだけでなく,関連する器官の詳細について理解したこと,(3)高齢者理解が深まり,また高齢者への視点の変化があったことの3点が明らかになった。特に,本実践を通して,通常学習では効果を上げにくい理科学習の有用感を高め,将来の仕事の可能性を広げて,やりがいを強く感じさせることができた。また,加齢に伴う疾患を科学的に理解できただけでなく,生徒の授業への興味関心が高まり,理科の有用感や学習の深まりを学習者が実感できたことは意義があると考える。 本実践により,理科と家庭科や総合的な学習の時間を関連させて指導することで,それぞれの教科の理解をより深めることができる可能性が示唆される点と今後の課題となる点が明らかになった。
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