研究概要 |
ミコフェノール酸のエステル型プロドラッグであるミコフェノール酸モフェチル(MMF)は、ヒトCES(主にCES1)によって活性型に変換され、UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)により抱合された後、体外排泄される。本研究ではUGTによる抱合反応にCESが与える影響を明らかにすることを目的として検討した。 はじめにCES監遺伝子多型によるMPAのグルクロン酸抱合体(MPAG)体内動態の個人差に対する影響を、秋田大学医学部附属病院にて施行された腎移植患者72名を評価した。その結果、CES1A1 wild type群に比べてCES1A1 variantを有する群においてMPAGの血中トラフ濃度は、有意に高値を示した(50.9±29.2vs,78.7±58.2)。この結果はCES1A1遺伝子の変異による発現変動が、それに引き続くUGTによる抱合反応に影響を与えていることを示唆する。CES1A1 variantはフランキング領域からエクソン1に群発する遺伝子多型ユニットで、CESIタンパクのN末端領域のアミノ酸配列に影響する可能性がある。この配列の変異によりCES1の発現局在が小胞体から細胞質に変化すると仮定して更に検討を行った。 まずヒト肝ミクロソーム(HLM)を用いてMMF⇒MPA⇒MPAGとMPA⇒MPAGへの代謝反応を比較した。HLMにおけるMPAGへの代謝は、MMF添加群ではVmax(nmol/min/mg protein)及びKm(μM)がそれぞれ16.8及び353、MPA添加群ではそれぞれ155及び383であり、両者に差は見られなかった。これらの結果は、MMF⇒MPAの変換がMPA⇒MPAGに比べて100倍程度早い反応速度で進むため、後者が律速となって抱合された結果と考えられる。今後は、HLM-CESと細胞質-CESの機能を区別してMPAGへの代謝を比較するために、ヒト肝遊離細胞系による検討または新たな代謝実験系の構築とその検討が必要と考えられる。
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