研究課題/領域番号 |
23H00001
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長田 年弘 筑波大学, 芸術系, 教授 (10294472)
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研究分担者 |
田中 咲子 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (00641101)
小堀 馨子 帝京科学大学, 総合教育センター, 准教授 (00755811)
師尾 晶子 千葉商科大学, 商経学部, 教授 (10296329)
中村 るい 東海大学, 文化社会学部, 教授 (50535276)
仏山 輝美 筑波大学, 芸術系, 教授 (70315274)
大原 央聡 筑波大学, 芸術系, 教授 (80361327)
齊藤 貴弘 愛媛大学, 法文学部, 教授 (80735291)
阿部 拓児 京都府立大学, 文学部, 准教授 (90631440)
小石 絵美 東京都立大学, 大学教育センター, 准教授 (40980248)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | パルテノン / ギリシア美術 / ギリシア宗教 / ギリシア神話 / ギリシア彫刻 |
研究実績の概要 |
パルテノン神殿に関する近年の欧米の研究は、この神殿の装飾を、ペルシア専制と対比される古典期ギリシア民主政下の市民の誇らかな自己表現であったと解釈する。これに対し、本課題は、パルテノン神殿彫刻はむしろ、アテナイとデロス同盟諸国の共通の祭祀と神話を表現し、アテナイによる同盟支配を正当化する役割を果たしたことを提言し再解釈を試みる。美術史、歴史、制作学の共同調査を実施し、調査対象を神殿からペルシア戦勝記念物全体へ拡大させ、神殿の造営目的に言及する。 令和5年度は、研究実施計画に従い、右記の研究を実施した。①6月18日、7月29日、8月7日に研究例会を開催し、研究代表と分担者による研究成果報告を実施した。②2023年9月に、関連作例の残存するデルフォイ、オリュンピア等のギリシア遺跡および博物館において10日間の共同調査を実施した。10名の参加者の全員が、遺跡および博物館においてプレゼンテーションを行った。研究例会(8/7)において問題点を共有した。③8月8日に、新アクロポリス博物館(アテネ)において、同博物館学芸員Raphael Jacob博士その他と共にパルテノン彫刻に関するセミナーを実施した。④11月18日に早稲田大学において、Vinzenz Brinkmann博士(フランクフルト大学)、中村義孝、谷口陽子を登壇者とする国際シンポジウム「古代ギリシア彫刻と彩色」を実施。社会還元のために一般公開とした。2024年3月8日に、Judith M. Barringer 教授(エディンバラ大学)によるオンライン公開講演会を実施した。⑤11月8日のシンポジウムにおいて、分担者である中村義孝の制作によるパルテノン・フリーズ浮彫石膏復元(実物大)を展示し、ギリシア彫刻の彩色に関する展覧会(欧米各国で巡回)の監修者 V. Brinkmann教授を交えて討議を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①において、特に古代ギリシア奉納記念碑の美術と歴史的背景(文献および碑文等)について、歴史班と美術史班を中心に研究成果を報告し問題共有と討議を行った。6月18日の発表題目は、長田年弘「パルテノン東破風彫刻ヘリオスとセレネについて」、齋藤貴弘「アテナイ民主政のシンボルとしてのテセウス―その展開と限界―」。7月29日の題目は、阿部拓児「パルテノン・フリーズとアパダナ・レリーフ―再々考」、8月7日は、長田年弘「ペルシア戦勝記念碑-複数ポリスないし共同体による共同奉納」、師尾晶子「戦争記念碑と《記憶の場》あるいは《記憶の強制》」。 ②において、パルテノン彫刻、ペルシア戦争関連記念碑、遺跡等の調査によって、パルテノン神殿装飾の調査と、再解釈のための問題点共有および討議を進めた。 ③において、神殿彫刻の新解釈「アテナイを盟主とするデロス同盟諸国との近親神話の構築」に関して討議を実施した。神殿彫刻が元来発していたメッセージについて検討を進めた。 ④において、パルテノン装飾を始めとする、古代彫刻の失われた彩色の復元に向けて研究成果を検討した。発表題目は、中村義孝「パルテノン・フリーズ浮彫復元の試み」、谷口陽子「古代から中世の彩色技法と材料」、Vinzenz Brinkmann博士(フランクフルト大学・Liebieghaus美術館主任学芸員)「古代ギリシア・ローマ彫刻の彩色に関する研究」。 ⑤において、パルテノン神殿装飾の石膏復元を、シンポジウム会場に展示して一般公開とし、参加者間の討議によって神殿装飾の歴史的社会的メッセージについて再解釈の基盤となる問題点について共有した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度の事業として、右記を計画している。①パルテノン彫刻およびペルシア戦争奉納記念物に関する全体集会として研究例会を開催し、神殿造営目的と附属彫刻の美術史的な解釈について発表と討議を行う。時期は6月を予定している。②エジプトないし他国の美術館等において、パルテノン彫刻および関連作品(ペルシア戦争奉納記念物その他)に関する調査を行う。現地において、必要に応じて研究例会を実施する。時期は夏季(9月)を予定している。③海外招聘者の講演、歴史班と美術史班の合同の研究例会を実施。④制作班の活動として、制作者の観点によるパルテノン彫刻研究例会を実施する。特に、中村義孝研究協力者によって制作した石膏模刻フリーズ浮彫について検討を進める。また、前回科研(令和3年)によって制作を進めた立体復元のモデルへのデータ変換について討議を進める予定である。 これら①から④の活動によって、パルテノン神殿装飾に影響したと思われる奉納記念物群に注目し、神殿彫刻とペルシア戦争の戦勝記念奉納物との比較検討を行う。美術史学と歴史学の共同調査により、欧米の価値観から離れた視点から解釈基盤を問い、日本隊独自の成果として発表する。美術史班(長田、田中、中村る)は、パルテノン彫刻の図像と様式の分析を、歴史班(小堀、師尾、齋藤、阿部)は、神殿装飾および奉納記念物の碑文等の文字資料の分析を中心に行う。制作班(中村る、大原、仏山)は、パルテノン彫刻の制作過程と造形について分析を行う。研究例会を情報交換と集約の場とする。研究会は可能な限り公開とし、共同研究の社会還元の一部とする。
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