研究課題/領域番号 |
23H00008
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
上條 信彦 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (90534040)
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研究分担者 |
高瀬 克範 北海道大学, 文学研究院, 教授 (00347254)
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
宇田津 徹朗 宮崎大学, 農学部, 教授 (00253807)
小野 映介 駒澤大学, 文学部, 教授 (90432228)
根岸 洋 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (20726640)
田中 克典 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (00450213)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 水稲農耕 / 弥生時代 / 稲作 / 使用痕 / 炭素・窒素安定同位体比 / 発掘 |
研究実績の概要 |
ⅰ.津軽平野低地部の弥生遺跡群の発掘調査 弥生時代水稲農耕集落の北限に位置する弘前市清水森西遺跡の発掘調査を行った結果、墓壙1基のほか径8mの大型竪穴建物跡を発見した。この建物は焼失しており、初めて中期初頭を上下2段階として層位的に捉えられた。土壌は水洗選別装置を用いて、フルイで濾したところ、100粒以上の炭化イネのほか多種の種子を検出し、弥生時代東北における検出量では最多となった。成果は発掘現場現地説明会、青森県遺跡発掘報告会、弘前大学北日本考古学研究センターでの速報展示を通じて、研究者内外に公開した。また高樋(1)遺跡の切り取り土壌を詳細観察、各層の試料のイネプラント・オパールから栽培の多様性を評価した。さらに津軽平野を中心にドローンを用いた三次元微地形解析を実施した。 ⅱ.新たな農耕集落の探求 津軽平野以外での農耕を行っていた集落があったとする仮説を検証するために、発掘が及んでいない地域の実地調査を行った。本年度は、次年度以降の本格的な調査に備え、函館平野を中心に実施した。各自治体の出土資料の把握、調査体制の構築、調査地の選定と地権者との交渉などの準備を行った。また北海道函館開発建設部函館道路事務所よりボーリング調査データの提供を受けた。 ⅲ.遺物の微視的分析による食料実態・栽培技術の検討 田舎館村埋蔵文化財センター保管の垂柳遺跡出土土器の整理、工藤正資料・青森埋文発掘資料の調査を行い、垂柳遺跡の過去の未整理出土品を中心に、遺物の三次元データ化を進めた。同時に、使用痕・付着物成分・圧痕といった遺物の微視的分析を垂柳・清水森西関遺跡で進めた。特に圧痕レプリカ調査を北斗市・七飯町の9遺跡,3個人コレクション中の24467個体で実施した。さらに、1粒のイネから年代測定と同位体比分析が同時実施できるよう、微量分析法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績ⅰでは、北東北で初めて、中期初頭を上下2段階として層位的に捉えられ、水稲農耕文化の定着過程をより精密に議論できるようになった。また、土壌の水洗選別の結果、100粒以上の炭化イネを検出し、弥生時代東北における検出量では最多となっただけでなく、研究実績ⅲに必要な自然科学的分析に必要な試料の確保にもつながった。津軽平野域の調査により、プラント・オパール分析や微地形解析を通じた水田域の広がりの可能性など、これまで課題となっていた弥生時代大規模水田を伴う遺跡の再評価につながる発見があった。さらに、報道公開や展示により、積極的に地域への成果還元を図った。 研究実績ⅱでは、調査に必要な国土交通省、自治体、博物館との協力関係を築くことができ、次年度に予定されている発掘・ボーリング調査に不可欠な体制が構築できた。 研究実績ⅲでは田舎館村教育委員会の全面的な協力関係を築くことができ、膨大な資料の再整理に着手できた。同時に圧痕・胎土・成分分析に必要な試料を多数得られた。また予定通り函館平野の圧痕分析にも着手できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、函館平野での実地調査と清水森西遺跡・垂柳遺跡出土資料の図化や撮影などのデータ化、イネ種子の形態・DNA・炭素窒素安定同位体比分析を本格化させる。実地調査においては安全性と効率性を要求された作業が必須となるため、その対策のための機器類の整備や、自治体を含む地域の理解が不可欠となる。機器類においてはSfmやドローンなどを用いた三次元計測を採用する予定である。また、函館平野の目途が付けば、津軽平野との比較のために三八上北地域を中心に、土器圧痕分析を実施する。砂沢遺跡の分析を進め、、収穫具の可能性があるスクレイパー類・剥片類の使用痕を確認する。なお、新型コロナウィルスによる影響により実地調査ができない場合は、イネ形質の蓄積データの解析やドローンによる空中測量による微細地形分析やボーリングなどを中心に分析を進める。
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