研究課題/領域番号 |
23H00042
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
栗崎 周平 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (70708099)
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研究分担者 |
水野 貴之 国立情報学研究所, 情報社会相関研究系, 准教授 (50467057)
土井 翔平 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 准教授 (30889134)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 国際政治経済の新秩序 / 構造的パワー / グレーゾーン・パワー / 企業所有と支配 / 株式保有ネットワーク / 経済安全保障 / データ科学 / 人工知能 |
研究実績の概要 |
本年度は本研究課題を推進する上で幾つかの基盤的な研究を進めた。第一に、株式保有ネットワークを通した新しい力の形成とその影響を計測するために、これまで本研究チームが構築してきたNetwork Power Index (NPI)を拡張し、中間株主とくに現在の株式市場における投資実績の大部分を占める運用会社(例えばBlackRock)やその他の大規模金融機関(例えばシティバンク)が間接的に保有する企業支配力を正しく計測するためにNetwork Power Flow (NPF)というモデルとそれを実際に大規模データで走らせるアルゴリズムを開発し学術論文として出版した。第二にNPIやNPFの計算に際して問題となる株式構成のデータ欠損の問題を考慮した多数派形成の算出方法について検討を加え従来のモデルを改善した(前述論文で記載)。第3に、これら金融市場での影響力のモデルが国際政治経済に与えるインパクトをデータで捕捉するためには、各種のデータベースを企業や株主(法人・個人)で識別した上で接合する必要があるため、大規模言語モデルや深層学習の最新の知見を動員してこれらエンティティのマッチングを達成するAIを開発した。例えばSeven Elevenと7-11は一文字もマッチしないが、これが同じエンティティであると判定することを実現するシステムである。第4に、この株式保有ネットワークを介した実質的株主(支配者)の同定する技術の応用先として社会的要請の大きいサプライチェーン分析に関して、既存の技術ではサプライチェーンの推定は非常に困難であるため、実用に耐えるサプライチェーン同定のAIを開発した。これは社会的要請が大きいため学術発表の先立ち『日経ビジネス』誌でその実演をしつつ特許申請をした。また経済安全保障などの現場の要請から幾つかのForensic的な機能を開発し付加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際政治経済の新秩序が立ち上がろうとしているその原動力としての株式保有を通したマネーと意思決定の構造的パワーとしての役割を記述するという最終目標に向けて、データ科学として必要な分析ツールを現在は開発している。その際に、実際に経済安全保障の問題に取り組んでいる複数の政府担当部局や、データベンダー(Moody'sなど)や、金融機関や事業会社などとコミュニケーションを取りながら、その実態を反映したデータ科学上のツールを順調に開発することに成功してきている。
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今後の研究の推進方策 |
本年(2024年)度に注力するプロジェクトは優先順位に以下の通りである。1)サプライチェーン強靱化の前提としてのサプライチェーンの特定と可視化の手段として政府機関や大手民間調査会社やコンサル会社は文献調査・聞き取り調査に依拠しており多大な人的・時間的コストを費やしつつも、満足のいく調査結果を得られていない。そこでサプライチェーンの特定・可視化を自動化する方法論について研究書を執筆する予定である。これについては欧米の大学出版会からの依頼で現在はプロポーザルの査読中である。2)株式保有を通じた企業所有・支配の影響力を定量化するNPIおよびNPFをその他周辺の指標とともに主に政治学コミュニティに向けてデータを公開する。データはまずは国家単位でNPI・NPFを集積したデータセット、ついで企業間のNPI・NPFを集積するデータベースと、2段階でリリースする。前者は技術的に従来型のものであり提供する我々の側もまたそれを利用する政治学コミュニティも対応できるが、後者はいずれにとっても技術的に乗り越えるべき壁がいくつかあるためである。データのリリースに際してはデータセットの一般データデポジトリへの登録、コードブックの作成やデータ紹介論文という作業が伴うが、まずはβ版を作成し、国際政治経済の研究者を中心に試験的に使用してもらった上で、早稲田大学に招聘しフィードバックを得る会議を開催する予定である。この会議の開催時期は来年度以降にずれ込む可能性があるが、まずはβ版のリリースを目指す。さらにNPI・NPFを利用してノルウェー銀行やICANのdivestment活動のその後を検証するプロジェクトを進める。ここでは投資を引き上げつつも間接的な投資によって前者はESG原則に反する企業、後者は軍需企業への投資流入が依然として解消されていない実態を可視化する。
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