研究課題/領域番号 |
23H00114
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
後神 利志 京都大学, 理学研究科, 助教 (20750368)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ラムダハイパー核 / バリオン間相互作用 / ストレンジネス核物理 / 電子ビーム / ハドロンビーム / 中性子星 / グザイハイパー核 |
研究実績の概要 |
新しく製作した高分解能磁気分光器 S-2S を、日本・J-PARC のハドロン実験施設 K1.8 ビームラインにおいて荷電粒子ビームを用いたコミッショニングを初めて行った。1.4 ギガ電子ボルトの運動量に及ぶ陽子、パイオン、K 中間子をビームとして用いたデータを成功裏に取得し、S-2S に取り付けられた荷電粒子検出器 (飛行時間検出器、飛跡検出器、粒子識別検出器) の性能を確認し、粒子検出器はおおむね設計通りの性能を発揮することがわかった。次年度に予定する S-2S の運動量分解能評価データの取得や (K-,K+) 反応を用いたグザイハイパー核データの取得に向けて、ハード・ソフト両方のメンテナンスと改良を既存データに基づいて行った。特に、(K-,K+) 反応を用いたグザイハイパー核の欠損質量測定研究に用いる 900本に及ぶシンチレーションファイバーで成る有感標的の高計数率耐性への対応ができた。また、(π+,K+) 反応を用いたラムダハイパー核分光実験についてのモンテカルロシミュレーションを実際の検出器の動作性能に基づいて行い、実験原理についての評価を行った。特に背景事象の計数率が既存のデータ取得系に耐え得るか否かを調べ、既存のシステムで対応できることがわかった。しかし、安全ファクターは数倍程度であり、実験を設計する上で必ずしも十分でないことから、予備データを取る必要性が高いことを明確にした。 一方、米国・ジェファーソン研究所 (JLab) において計画する電子ビームを用いたラムダハイパー核分光実験については、既に実験課題採択委員会 (PAC) に採択されているプログラムに加え、p 殻系におけるラムダ-核子間の荷電対称性の破れの研究に特化した新しい実験を考案し、Letter of Intent として JLab PAC 51 に提出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
J-PARC (日本) における新設磁気分光器・S-2S のビームを用いた初めてのコミッショニングを開始し、粒子検出器やデータ収集系、解析ソフトウェア等が設計どおりに動作することを確認できたことは大きな進展である。また、JLab (アメリカ) における新しい実験案については、PAC に Letter of Intent として提出したことで PAC 委員からのフィードバックを得ることができた。より実現性の高い実験案へ繋げられる。また、実験準備についても、JLab の研究者の強力なサポートのもと順調に進んでいる。以上の状況から、おおむね順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
J-PARC におけるハイパー核分光研究については、4 月、5 月に S-2S の運動量分解能評価のためのデータを取得する。得られたデータを使ってエネルギー校正手法の確立と、運動量分解能の評価を行う。後期には、(k-,K+) 反応を用いたグザイハイパー核分光実験を施行し、詳細な性質について未解明なグザイ-核子相互作用についての新しい知見を得る。本グザイハイパー核実験において、主要な検出器の一つがシンチレーションファイバーで構成される有感標的であり、この有感標的による粒子飛跡解析、そして粒子のエネルギー損失解析が得られる信号スペクトラムのエネルギー分解能性能を左右する。運動量解析、および有感標的のデータ解析については、従来の解析手法に加え、機会学習を用いた手法の開発も行う予定である。また、(π+,K+)反応を用いたラムダハイパー核分光実験における背景事象んじついての予備データを取得する。この予備データに基づいて実験設定を詳細に詰める。 一方、JLab におけるラムダハイパー核分光実験プロジェクトについては、新しく 3 つの実験申請をする予定である。5 月に新実験課題を JLab PAC 52 に提出し、7 月にはプレゼンを行い、採択を目指す。また、11 月に実験技術面に関するレビューがあるため、それに向けた文章・プレゼンの準備を共同研究者と密に強力して進める。粒子検出器の宇宙線を用いた試験、データ収集系の開発、標的系の開発等についても現地の研究者と共同で進める予定である。
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