研究課題/領域番号 |
23H00144
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
関根 康人 東京工業大学, 地球生命研究所, 教授 (60431897)
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研究分担者 |
渋谷 岳造 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究開発プログラム), 主任研究員 (00512906)
Smith Harrison 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任准教授 (50843934)
丹 秀也 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究開発プログラム), Young Research Fellow (90973321)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 固体惑星・衛星・小天体 / 固体惑星探査 / 宇宙・惑星化学 |
研究実績の概要 |
太陽系氷天体は、地下にある液体の海の存在から、生命存在可能性の高い天体として注目を集める。これら氷天体のうち、これまで海洋の化学・環境に迫ることができたのは、海水が宇宙に噴出するたった一つの天体であった。ところが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって、海洋化学に関する観測データが、木星系から海王星系までで得られようとしている。本研究は、「A. 化学実験と流体計算に基づき海洋組成やその空間分布を予測する氷天体海洋モデル」と、「B.化学実験と複雑系理論に基づく有機化学進化ネットワークモデル」を構築し、観測データを解釈する。 「A.氷天体海洋モデル」については、生命必須元素であるリン酸が、土星衛星エンセラダスで異常濃集していることを明らかにし、その要因がアルカリ性の海洋(pH~10)と高い溶存二酸化炭素濃度にあることを突き止めた。また、氷衛星表面での紫外線や高エネルギー粒子による酸化効率に関しては、元素の依存性が大きく、塩素は酸化されにくい一方、硫黄は極めてよく酸化されることが明らかになった。このように、モデル化する上での、鍵となるいくつかの化学反応過程を突き止めることができた。 「B.有機化学進化」については、氷衛星海洋のなかで生まれるpH勾配が駆動する電気分解によって、アミノ酸が分解され、その前駆物質に変換されることを示した。この分解されやすさの傾向は、現在見つかっている炭素質隕石中や小惑星リュウグウの帰還試料中のアミノ酸とその前駆物質の存在割合をよく説明することがわかった。このように有機化学進化を考える上で、天体内部の化学勾配が重要であるという知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
氷衛星の地下海の化学組成の多様性の支配要因であるいくつかの化学反応(リン酸塩溶解反応とアミノ酸分解反応)について、その基本的な反応メカニズムを明らかにすることができた。結果は、NatureやScience Advancesといった高いインパクトを持つ雑誌に掲載され、国内外から高い反響を得た。
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今後の研究の推進方策 |
「A.氷天体海洋モデル」については、海洋大循環モデル(MIT GCM)を本格的に走らせ、境界条件に対する物質の移流拡散の定式化を行う。これに、水-岩石反応の結果を入れていくことで、エウロパやエンセラダスといった特定天体に関する氷天体海洋モデルを構築する。 「B.有機化学進化」については、複雑系科学ネットワークについては、上記の触媒反応に加えて、既存の化学反応のデータベース(e.g., Reacxys)を用い、数千の反応をそれが生じる水環境条件ごとに分類することを継続して行う。得られた有機化学反応モデルを小惑星リュウグウの水環境の下で計算し、実際に得られている有機物の存在パターンと比較する。
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