研究課題/領域番号 |
23H00183
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
千葉 大地 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (10505241)
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研究分担者 |
只野 央将 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 主任研究員 (90760653)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | スピンエラストロニクス / 磁気弾性効果 / フレキシブルスピントロニクス / ひずみセンサ |
研究実績の概要 |
MRAMなどで用いらている、CoFeB/MgO系の超薄膜積層構造をフレキシブル基材上に製膜し、ひずみによりその垂直磁気異方性を制御することに成功した。また、3d遷移金属磁性元素をベースとした磁性超薄膜の積層構造をフレキシブル基材を引っ張りながら製膜し、引張応力を開放することで、製膜した超薄膜ビルトインひずみを与えることに成功した。これにより、二層の磁性層の磁化配列が初期状態で90度の角度を成している磁気抵抗素子の実証に成功した。ビルトインひずみを有する磁性薄膜のキュリー温度が、ひずみを有さない膜と異なるかどうかについても、実験的検証を進めた。 技術的には、世界最高感度を有する、スピントロニクス技術を用いたひずみゲージの改良を進め、力学センサへの実装を進めた。 背景学理の理解については、第一原理計算を用いて44の単元素固体に対して応力ひずみ曲線を網羅計算し、FCC構造は110方向、BCC構造は100方向が引張りに対して最も弱いこと、引張強さが大きい程最大ひずみ量が小さい傾向があることを示した。引張強さの元素依存性は第一原理計算で定量化した共有結合性から定量的に理解できることを明らかにした。また、フォノン分散やマグノン分散から構造や磁性の安定性を評価する計算コードの整備を行った。同手法をBCC鉄へ適用したところ、マグノン分散は110、111面方向に引張ひずみを与えてもほぼ変化しない一方、100面方向に引っ張るとソフト化し、15%程度のひずみで不安定化するという結果が得られた。また、マグノンの変化と連動してキュリー温度のひずみ依存性にも顕著な面方位依存性が存在することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、エラストスピンデバイスの力学センサへの実装を着実に進め、エラストスピンデバイスの優位性の実証に向けた研究開発を進めて。また、CoFeB/MgO系の超薄膜において、界面垂直磁気異方性の制御に成功している。また、エラスト磁気秩序変換機能を開拓するため、キュリー温度のひずみによる変化の検証を着実に進めている。理論的には、さまざまな面方位のひずみに対するフォノン分散やマグノン分散の応答を定量的に評価するための第一原理計算コードを開発した。フォノン分散はALAMODEとVASPを利用しており、単位胞に300原子程度までであれば手持ちの計算資源で効率的に計算出来ることを確認した。マグノン分散の計算コードは新規に作成した。マグノン分散の計算に必要な磁性元素間の交換結合定数Jijは、OpenMXコードに実装されているリヒテンシュタイン法を用いて評価し、さらに結晶の対称性を利用することでJij計算を効率化した。開発したコードによって、マグノン分散のひずみに対する依存性を定量評価できる事を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
力学センサへの実装はその用途やニーズも明確になってきているため、社会実装第一弾を目指してスケジュール感を検討していく。 実験的な学理構築については、残りの2年で当初計画を着実に遂行していく。 理論的な学理構築については、開発したフォノン・マグノン計算コードを、低次元系を含むより多くの材料へ適用し、構造や磁性が不安定になるひずみ量の元素(電子軌道)・次元性・面方位依存性を系統的に評価し、電子論に基づきそれらの起源を解明する。その結果をもとに、弾性ひずみによる磁性・非磁性転移の可能性を検討する。さらに、磁性/非磁性界面などのヘテロ構造を露わに考えた理論計算を実施し、磁気異方性やトンネル磁気抵抗などの輸送係数のひずみ依存性に対しても電子論的な理解を目指す。
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