研究課題
本研究の目的は、組織を超微細化したバルク金属材料であるバルクナノメタル(Bulk Nanostructured Metals)が示すユニークな変形挙動のメカニズムを、加工硬化現象に特に注目して解明し、その学理を確立することである。Al-Mg合金やFe-Mn-C合金などでは、引張試験により得られる応力ひずみ曲線上に小刻みな応力変動(セレーション)が現れ、加工硬化が大きく向上することが知られている。こうしたセレーションは、すべり運動する転位と溶質固溶原子との相互作用により生じると考えられてきた。一方最近研究代表者らは、平均粒径数μmのFCC単相組織を有するFe-22Mn-0.6C合金のセレーションを、引張変形中のDIC局所ひずみ解析とその場放射光X線回折法を用いて解析し、同試料では局所変形帯が発生・伝播・消滅を繰り返し、それが応力ひずみ曲線上のセレー ションと完全に同期していることを見出した。すなわち、セレーションはメゾスケールの動的な不均一変形によるものであることが明らかになったが、転位と溶質原子との相互作用というナノスケールの現象と上記のメゾスケールの不均一変形との関係は未だ不明である。本年度は、様々な平均粒径を有するFe-22Mn-0.6Cのセレーション挙動をDICおよびその場回折法(放射光X線および中性子回折)を駆使してマクロ・メゾスケールで定量的に明らかにし 、同時にTEM観察等によるナノスケール解析を行って格子欠陥レベルでも調査を行った。これらの実験研究により、セレーションは転位の運動に溶質原子の拡散が追随して生じるのではなく、むしろ転位がその運動時に結晶中に存在する近隣の溶質原子に引っかかり、徐々に運動が起こりにくくなる過程と、そうした固着からの離脱過程の繰り返しとして、不均一変形を伴いながら発生することが示された。
2: おおむね順調に進展している
マクロ・メゾスコピックレベルでセレーション挙動を多角的に評価し、セレーションが必ず不均一変形(deformation banding)を伴うこと、また転位運動に溶質原子の拡散が追随するという従来のモデルでは説明できないことを明らかにできた。さらに、セレーションに伴う局所的な転位密度の増加を放射光その場X線解説実験により定量評価した。
順調に研究を開始できているので、当初計画に沿って研究を推進していく。前年度に引き続き、セレーションを通じたバルクナノメタルの加工硬化向上のメカニズムを解明する。未だ不明な、転位と溶質原子との相互作用というナノスケールの現象と上記のメゾスケールの不均一変形との関係を、Fe-Mn-C合金やAl-Mg合金を用いて明確にする。また粒径がセレーションおよび加工硬化に与える影響も不明であるため、超微細粒から粗大粒まで種々の平均粒径の試料を作製してその変形挙動を明らかにする。また2024年度は、軟質ドメインと硬質ドメインから成る複相バルクナノメタルの加工硬化機構解明のための研究を、前年度に作製した複相バル クナノメタルを用いた実験研究を実施する。バルクナノメタル化したDual Phase (DP)鋼に対してDIC法、その場中性子・放射光X線回折や、TEM内その場変形観察・解析、原子シミュレーションを併せて実施して、加工硬化促進のメカニズムを 明らかにする。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 9件、 査読あり 12件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 15件、 招待講演 7件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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