研究課題
これまでRh-Ru助触媒を担持したNaTaO3:Sr光触媒が,水を電子源とした二酸化炭素還元によるメタン生成に活性を示すことを報告してきた。本研究ではその高活性化を目指すため,複合助触媒種および助触媒担持量の最適化を行った。その結果,Pd-Ru助触媒が従来のRh-Ru助触媒よりもメタン生成に効果的であることを見いだした。さらに高エネルギー加速器研究機構の研野澤准教授の協力のもと,XANESスペクトルによって助触媒の化学状態を調べたところ,二酸化炭素還元前ではPdおよびRuは共に酸化物に近い状態であったのに対し,二酸化炭素還元後では金属に還元されたことがわかった。また,特筆すべきことにPd-Ni助触媒を担持したNaTaO3:Sr光触媒は水を電子源とした二酸化炭素還元によって,メタンのみならず,エタン,およびプロパンを生成することを世界で初めて見いだした。可視光照射下において水を電子源とした二酸化炭素還元に活性を示す単一粒子型光触媒の開発にも着手した。当研究室で開発された可視光水分解に活性を示すSrTiO3:Ir,Sb,Al単一粒子型光触媒に対してAg-CoおよびAu-Co助触媒を担持したところ,可視光照射下での水を電子源とした二酸化炭素還元による一酸化炭素の生成を確認した。特に,Au-Co助触媒を担持した場合,本反応は定常的に進行し,電子ベースの一酸化炭素生成選択率は最大4%に達した。さらに,このときの電子正孔比はおよそ1となり,本反応は水を電子源とした二酸化炭素還元であることがわかった。このように,単一粒子型光触媒を用いた可視光照射下での水を電子源とした二酸化炭素還元を初めて達成した。
2: おおむね順調に進展している
Rh-Ru助触媒を担持したNaTaO3:Sr光触媒が,水を電子源とした二酸化炭素還元によるメタン生成に活性を示すことを世界に先駆けて報告してきたが,その活性は低く,更なる高活性化が求められていた。そのなか,Pd-Ru助触媒は従来のRh-Ru助触媒よりもメタン生成に効果的であることを見いだした。特に,Pd-Ni助触媒を担持させたNaTaO3:Srがメタン生成のみならず14電子還元体のエタンおよび20電子還元体のプロパン生成に活性を示したことは画期的な成果である。また,これまで報告例がない水を電子源とした二酸化炭素還元に活性を示す単一粒子型SrTiO3:Ir,Sb,Al光触媒の開発に成功した。この光触媒においても助触媒は重要であり,Au-Coを担持させたときに定常的な二酸化炭素還元が進行した。このように,複合金属助触媒種を探索することで光触媒的二酸化炭素還元による有用な多電子還元反応場を構築することに成功した。
有用な二酸化炭素還元の多電子還元反応場として機能する複合金属助触媒の開発を引き続き行うことで,NaTaO3光触媒によるメタン,エタン,プロパン生成の高活性化,さらにはC4以上の炭化水素生成を目指す。また,今までに得られた知見をもとに,われわれが保有している水分解光触媒ライブラリーを活用した新規光触媒を開発する。なかでも高い水分解活性を示すAgTaO3光触媒に対する複合助触媒担持効果を調べる。AgTaO3光触媒のバンドギャップは3.4 eVであり,これまで扱ってきたNaTaO3光触媒のバンドギャップの4.1 eVよりも狭いバンドギャップを有する。したがって,NaTaO3よりも長波長の光に応答してC2以上の炭化水素を生成することに期待がもたれる。引き続き,有用な複合助触媒の開発を行うことで単一粒子型SrTiO3:Ir,Sb,Al光触媒の高活性化を目指す。また,光触媒合成法の検討や表面修飾によって可視光照射下での二酸化炭素還元に高い活性を示すZスキーム系の開発を行う。それと並行して,助触媒のキャラクタリーゼーションを詳細に行い,有効な多電子還元反応場の正体を突き止める。
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