研究実績の概要 |
令和5年度の研究実績の概要は下記のようになる。 (a) ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のTAR RNA(Trans-activation responsive region RNA)を標的とする蛍光プローブを開発した (論文投稿中)。新規に開発したプローブ(FiLuP)は、Tat ペプチド (residues 49 to 57: RKKRRQRRR) を基盤とするもので、TAR RNAに対して強力かつ高選択的に結合し (解離定数 Kd = 1.0 ± 0.6 nM)、off-on型の優れたlight-up応答を示す(λem = 541 nm, Φfree = 0.0057, Φbound = 0.61)。FID (Fluorescence indicator displacement assay) 法で活用されてきた従来の蛍光インジケータとは対照的に、FiLuPは、TAR RNAに対する「競合」阻害剤と「非競合」阻害剤を正確に識別でき、さらに超強力な競合阻害剤を効率良くふるい分けることができる。 (b) 赤色検出(> 600 nm)に対応しうる新規モノメチンシアニン蛍光色素(benzo[c,d]indole-oxazolo[4,5-b]pyridine)を開発した(Talanta Open, 2024, 9, 100308)。また、本研究課題に関連する成果として、高輝度RNA染色蛍光色素を開発した(仮出願番号:63/560,774、2024年3月米国出願)。新規に開発したRNA染色蛍光色素は、off-on型の優れたlight-up応答機能と膜透過性を併せ持ち、先に報告した世界トップレベルの高輝度蛍光色素(ACS Omega, 2022, 7, 23744-23748)と比較して、更に高感度な生細胞RNA(核小体)イメージングが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時点において、A型インフルエンザウイルスRNA及びリボソームRNAを標的とする三重鎖形成ペプチド核酸(PNA)プローブは開発済みである(第1世代:Anal. Chem. 2022, 94, 7814-7822; Chem. Commun. 2020, 56, 14976-14979)。令和5年度は、結合力や結合選択性、蛍光応答特性の改良を進め(第2世代)、更なる機能強化に成功している(International Symposium for the 80th Anniversary of the Tohoku Branch of the Chemical Society of Japan・日本分析化学会第72年会等で、成果の一部発表)。また、上述したように、HIVのTAR RNAに関しては、新規にオリゴペプチド型プローブの開発に成功しており(論文投稿中)、現在、赤色検出(> 600 nm)に対応できるよう機能改良を進めている。 以上のように、本研究は順調に進展していると自己評価している。
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