研究課題/領域番号 |
23H00321
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
深水 昭吉 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 教授 (60199172)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ヒスチジンメチル化 / タンパク質メチル化 / アルギニンメチル化 / ヒストンメチル化 |
研究実績の概要 |
血中のメチルヒスチジン(His)は、乳牛の分娩後の栄養状態のバイオマーカーとして、また、ヒトを含め、筋タンパク質代謝を反映する指標とされてきた。しかし、メチルHisの生成を触媒する哺乳類のメチル化酵素の同定や、その機能の理解は進んでいない。そこで本研究では、タンパク質Hisメチル化酵素が生体の恒常性維持に果たす役割とその作用機序の解明を目的とした。
今年度は、主にヒスチジンメチル化されるタンパク質の同定に取り組み、以下の成果を挙げた。 1) マウスの骨格筋および脳組織を用いて、生化学的手法によるタンパク質の分画と分析化学的手法を組み合わせた解析から、ヒスチジン残基がメチル化修飾される新たな基質として、解糖系酵素エノラーゼのサブユニットであるγ-enolaseを同定した。また、3種類の異なるアミノ酸配列を持つエノラーゼ(α、β、γ)のうち、脳神経系特異的に発現するγ-enolaseの190番目のヒスチジン残基がメチル化されることを明らかにした(J. Biochem. PMID: 37279646, 2023)。
2) これまで確認されていなかったヒストンの翻訳後修飾として、ヒスチジン残基のメチル化を見出した。 ヒストンは、H2A、H2B、H3、H4という4種類のコアヒストンタンパク質が二つずつ集まった8量体で構成されているが、このうちヒスチジンメチル化は、ヒストンH2Aの82番目とH3の39番目のヒスチジン残基に生じていた。ヒストンのメチル化修飾のほとんどはリジン残基に集中していることから、ヒスチジン残基のメチル化は限られた特定の遺伝子領域に存在するヒストンに起こることが示唆された(J. Biol. Chem. PMID: 37543365, 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タンパク質のヒスチジン残基のメチル化修飾は、リジン残基とアルギニン残基に続く第3のメチル化修飾として近年注目されている。しかし、その酵素化学的解析や生物学的意義の解明に不可欠である触媒酵素やその基質の報告例が、第1・第2のメチル化修飾に比べて非常に少なく、研究の進展を遅らせている大きな要因となっている。新たなヒスチジンメチル化基質であるγ-enolaseの発見は、解糖系におけるヒスチジンメチル化の重要性の理解や、新規ヒスチジンメチル化酵素の探索のための有用な手掛かりとなることが期待される。また、ヒストンには多くのリジン残基があり、メチル化に加え、ユビキチン化やアセチル化などの多様な翻訳後修飾が生じることが知られている。その組み合わせパターンはヒストンコードと呼ばれ、転写調節を指令する暗号と考えられており、今回のヒスチジン残基のメチル化修飾の発見は、新しいヒストンコードとなる新たな一歩になると期待される。以上の理由から、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、作製済みのヒスチジンメチル化酵素遺伝子のノックアウトマウスの解析結果を論文化するとともに、新しいヒスチジンメチル化タンパク質の同定を目指す。
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