研究課題/領域番号 |
23H00329
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
荒木 仁志 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20707129)
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研究分担者 |
峰岸 有紀 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (80793588)
仲岡 雅裕 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (90260520)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 時空間分布 |
研究実績の概要 |
本年度は通し回遊魚の代表的魚種であるサケ(Oncorhynchus keta)の遡上・再生産する主要河川の一つである千歳川およびその支流(内別川、漁川)、千歳川と同じく石狩川水系に属する豊平川において年間を通した定期調査を行い、計10地点から約300サンプルを収集した。これらサンプルの一部はDNA抽出後、半定量環境DNAメタバーコーディング解析に供し、サケの季節的河川利用をはじめ、これら河川に生息するアメマス、ウグイ属等の回遊魚やハナカジカ、フクドジョウ等の純淡水魚の時空間分布に関する情報も得られつつある。このうちフクドジョウについては以前収集していた環境DNAサンプルを基に系統地理解析を実施し、道内のフクドジョウに2つの由来の大きく異なる系統群が存在していることを明らかにした。この結果は生態学のトップジャーナルであるMolecular Ecologyにオンライン掲載されている。またこれらのサンプルからは外来種ブラウントラウトのDNAも検出されており、サケ稚魚のふ化・浮上・降河パターンとこれを捕食する本外来種の時空間移動に関する種間相互作用の行動学的解析も実施可能であることが明らかになってきた。 本年度はこのほか、研究分担者・協力者の補助を得つつ道北・道東・道南地方のサケマス遡上河川およびその沿岸、石狩川中流域の支流、北陸から山陰地方に至る日本海側のサケ遡上河川についてもサケの遡上が見込まれる秋や稚魚の降河が見込まれる春を中心に採水調査を実施した。これらサンプルは一部DNA抽出を完了しており、今後これを解析に供することで、全国規模でのサケマス遡上分布解明のための基盤情報が得られるものと期待される。またこれらの河川の一部には太平洋サケ属の魚だけでなく同じくサケ科に属しながら淡水依存性の強い絶滅危惧種イトウも生息しており、保全生物学的応用も視野に入れた解析を実施予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は研究代表者(荒木)がサバティカル研修期間にあったため、4か月にわたり国内に本研究課題の代表者が不在の状況が生じたものの、事前の入念な打ち合わせやサバティカル期間中のオンラインでの打ち合わせにより、研究分担者・協力者による野外調査は予定通りに実施され、当初予定していた北海道内および日本海側のサケ遡上河川におけるサンプリングは全て実施できた。そのサンプルからのメタバーコーディング解析についても研究代表者の研究室助教である研究協力者(坂田)や本研究費で雇用した実験補助員(井上)の協力により年間を通して継続でき、良好な分析結果が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
野外調査については今年度も昨年度同様の頻度で継続し、生物分布、特に回遊魚分布・移動の季節変化だけでなく経変変化も検証できるデータの収集を目指す。更に調査地点として昨年度カバー出来なかった本州太平洋側河川を加え、サケの国内遡上河川の網羅的観測を実現する。また、これらサンプルの解析結果としての生物量定量性を向上するため、実験時に添加する内部標準(濃度既知の人工DNA)のプロトコル改良を行い、サケやその他回遊魚を含む多魚種同時生物量推定のための技術開発を実施する。
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