研究課題
本研究は、強毒化が問題となっているサケ科魚類の伝染性造血器壊死症(IHN)をモデルとし、「課題①ウイルスの持続感染成立条件の解明」、「課題②持続感染でのウイルス変異」、「課題③持続感染の発生抑制に関連する免疫因子の解明」を行うとともに、「課題④DNAワクチン利用による持続感染の抑制」を開発することを目的とする。2023年度には、課題①では、成熟前と産卵期におけるニジマス親魚の各臓器からウイルス検出を行い、体腔に排卵した個体では体腔液に加えて脾臓などの臓器で分離されるが、腎臓からは分離できないことが明らかとなり、また、産卵直前では卵巣からのみウイルスが検出された。性成熟しない3nニジマス成魚を感染源とした排水感染試験において、未感染稚魚へ伝播することが明らかとなり、3n個体でも持続感染が起こることが判明した。課題②では、2分離株を供試してRTG-2細胞で20回の連続継代培養を行い、GおよびNタンパク質遺伝子の変異を調べたところ、変異は認められなかった。課題③では、体腔液由来や死亡稚魚由来のウイルスなど毒力の異なる分離株を用いたニジマス稚魚での感染実験を行い、死亡率80%の死亡魚由来YN1311株と死亡率35%の親魚体腔液由来N9F株の感染19日および27日後に取り上げた個体5尾の体腎を用い、網羅的な発現解析を行った。死亡率の低かったN9Fでは、抗体上昇がなく、インターフェロン関係の遺伝子の上昇が続いていたことが判明した。このことから、自然免疫系が働いて魚体内増殖を完全ではないもののある程度押さえ込めると、抗体産生に移行せず、持続感染が成立すると考えられた。課題④では、強毒YN1311株と弱毒SO1304株のN、P、M、G、NVタンパク質遺伝子のDNAワクチンを構築した。
2: おおむね順調に進展している
全体に計画通り進行している。課題①では、親魚では排卵直前に卵巣に再感染することが判明した。さらに検体数を増やし、再感染部位の確証を得るとともに、なぜ卵巣でのみ増殖できるのか、なぜ造血器での感染が起こらないのか、獲得免疫との関連などとの検討を進める。課題②では、培養細胞レベルではウイルス変異は起きにくいことが判明した。免疫からのウイルス逃避が変異を助長すると推察され、既知ウイルス株を感染させた個体の長期飼育により、免疫の状況とウイルス変異との関係の検討を進める。課題③では、持続感染の成立とインターフェロンなどの非特異的な防御反応の関係が示唆された。持続感染の成立に関する重要な要因と考えられ、さらに、ウイルスの魚体内増殖と免疫系発現状況との関係について検証を進める。課題④では、計画通りに強毒株と弱毒株由来のDNAワクチンが準備できた。今後、これらを用いて、強毒株と弱毒株の各タンパク質の対する免疫応答について詳細に検討を進める。
今年度計画に沿って実施し、大きな問題はなかった。さらに来年度も計画通り実施していく。課題①では、前年度に引き続き、長野県水産試験場の協力を得つつ、産卵親魚の再感染部位を特定する。課題②では、前年度に引き続き、静岡県水産・海洋技術研究所富士養鱒場の協力を得つつ、既知ウイルス感染魚での経時的ウイルス変異を調査するとともに、新たに培養細胞でのウイルス同時感染によるハイブリッドウイルス産生について調べる。課題③では、供試ウイルス株に弱毒の分離株を新たに加え、その死亡率の異なる感染耐過稚魚群で持続感染の有無を調べるとともに、異なる持続感染状況の群における免疫関連遺伝子の網羅的発現解析を再度行い、昨年度の結果との比較・検証を行う。課題④では、構築したDNAワクチンを用い、宿主免疫応答を調べる。さらに、今までに得られた成果の発表を進める。
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