研究課題/領域番号 |
23H00347
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
糸井 史朗 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (30385992)
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研究分担者 |
MORI TETSUSHI 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00590100)
周防 玲 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (20846050)
浅川 修一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30231872)
西川 俊夫 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (90208158)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | フグ毒 / テトロドトキシン(TTX) / ツノヒラムシ属 / ゲノム解析 / 毒化機構 / オオツノヒラムシ |
研究実績の概要 |
フグ類が保有することで知られるフグ毒テトロドトキシン(TTX)は、細菌が生合成し、食物連鎖を通してフグの体内に蓄積されると考えられているが、その詳細は不明である。本研究では、研究代表者らのこれまでの研究で得られたデータをもとに、TTXがオオツノヒラムシの体内で共生細菌との協働作業により生合成されているとの仮説にもとづき研究を進めている。 本研究では、この細菌種がTTX保有ヒラムシに普遍的に存在することを明らかにし、ヒラムシのゲノムとともに細菌由来のDNAを取得して、情報学的処理により当該細菌種のゲノムの再構築を試みている。これまでに多量のTTXを保有するヒラムシは、ツノヒラムシ属であることを明らかにしており、この分類群の有毒種と無毒種の細菌叢を比較した。その結果、有毒種であるオオツノヒラムシ、ツノヒラムシおよびPlanocera sp.の全ての個体から特定の細菌種が18%前後と高頻度に検出されたのに対し、TTXを保有しないオキヒラムシからはほぼ検出されなかった。これらの結果は、TTXを保有するツノヒラムシ種にとって、この特定の細菌群がTTXの保有・生合成に必須であることを示唆する。 また、有毒ツノヒラムシ類がTTXの他に複数のTTX生合成中間体と考えられている化合物を保有することが明らかとなった。TTXを保有するツノヒラムシ種の体内でTTXが生合成されているのであれば、TTX生合成中間体の組成には、個体群間で差がないことが期待される。日本列島各地で採捕したオオツノヒラムシ個体群のTTXおよび生合成中間体の組成をLC-MS分析により調べた結果、TTXおよび生合成中間体分子の存在比については地域間でほぼ一致していた。この結果は、ツノヒラムシ類の体内でTTXが生合成されていることを裏付けるものであり、TTXの生合成に関与する細菌群が地域を問わず常に同系統であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ツノヒラムシ類の体内でTTXが生合成されているとの仮説の下、これに関与するオオツノヒラムシおよび共生細菌の遺伝子群を特定することが本研究の目標である。オオツノヒラムシ体内でのTTX合成に関与していると思われる細菌群が高濃度のTTXを保有するツノヒラムシやPlanocera sp.からも検出されたのに対し、これらヒラムシ類にきわめて近縁なTTX非保有種であるオキヒラムシからは検出されなかった。この結果は、TTXの生合成に当該細菌群が関与していることを裏付けるものであり、これを分離・培養することの正当性を補強するものと考えている。同時進行で当該細菌種に近縁な標準株を入手して、この細菌株の培養条件を参考にTTX保有ヒラムシからの共生菌の分離を試みていたが、当初の想定通りには分離株を得ることができずにいた。再度、当該細菌株の分離条件について検討し直した結果、ある特殊な方法で当該細菌株を培養できることが明らかとなったため、現在この方法での分離作業に取り組んでいる。 オオツノヒラムシから、TTXの生合成中間体を検出し、その主成分を成すものについて、明らかにすることができた。また、他のTTXを保有するヒラムシ類のTTXの生合成中間体を検出するとともに、オオツノヒラムシをモデルとして、TTX保有魚類の毒化に及ぼす影響の一端を明らかにすることもできた。さらに、既報のTTXの生合成中間体のデータベースをインストールしたMS-DIALを用いたTTX関連化合物のノンターゲット分析手法の確立にも着手し、運用の試みを開始するに至っている。 以上、これまでの進捗を総じて評価すれば、研究計画に記載した内容の進捗はおおむね順調に進展しており、今後は比較的早い段階で当初の計画に近い形で進展させることができるようになるのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、オオツノヒラムシが保有するTTXおよび生合成中間体の組成に地域差が認められないこと、オオツノヒラムシに近縁なTTX保有ヒラムシ2種と比較してもこの組成に差が認められないこと、TTX保有種は共通の細菌群を保有していること等を明らかにし、ツノヒラムシ類の体内でTTXの生合成が進み、これに関わる細菌群がTTXを保有するヒラムシの種の違いを超えて分布していることを明らかにすることができた。これらの結果は、TTX保有ヒラムシが細菌群との協働作業によってTTXを産生している、との本研究の前提が正しいことを示しており、当初の計画通り進めることができるものと考えている。今年度、すでにTTX産生に関与すると思われるTTX保有ヒラムシの共生細菌の分離に取り組み始めており、純粋菌株が得られ次第、当該細菌株のゲノム解読を行うとともに、これまでに情報学的処理により得られている配列データと比較分析し、より精度の高いゲノムを構築する予定である。また、純粋菌株が得られることで、MS-DIALを利用して細菌側とヒラムシ側が互いに提供し合う物質を明らかにすることができると考えており、TTXの生合成系の解明に向けて大きく前進できると考えている。
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