研究課題
自然免疫は病原体の感染をいち早く察知して炎症反応を引き起こすことに加え、後に続く獲得免疫を誘導するという極めて重要な役割を果たす。自然免疫を誘導する病原体センサーとしては、膜結合型のToll様受容体 (TLR;Toll-like receptor)がその代表例である。TLRは病原体に特徴的な微生物モチーフを危険シグナルとして認識するパターン認識受容体ファミリーであり、生体防御において重要である。リソソームをプラットフォームとする自然免疫受容体TLR3は主としてウイルスに由来するdsRNAを認識する。これまでの研究により、最短でおよそ40 bpのdsRNAを介して二量体を形成することが明らかにされているが、効率的な活性化にはより長鎖のdsRNAを必要とする。しかしその機構については不明な点が多かった。我々はTLR3細胞外ドメイン試料と90 bpの dsRNAとの複合体構造をクライオ電子顕微鏡単粒子解析により構造決定した。既報の二量体構造2つがdsRNAに沿って約90Å;の並進移動により配置されていた。より長鎖のdsRNAに対してはさらに高次の多量体を形成することも確認した。2つの二量体間は相補的な表面電荷を有していることから多量体形成には静電相互作用が重要な働きをしている可能性がある。このことを確認するため、二量体単位間の近接領域に存在する電荷をもつアミノ酸に特に注目し電荷反転変異を導入したところこれらの変異体は活性が有意に低下し、多量体形成能も低下した。長鎖dsRNAによるTLR3の効率的な活性化は、TLR3の多量体形成によって細胞内のTIRドメインの局所濃度上昇、アダプター分子(TRIF)との会合促進により効率的なシグナル伝達が可能となるためであると考えられる。リソソームに局在するTLR7、TLR8はヌクレオシドとオリゴRNAを認識する。
2: おおむね順調に進展している
長鎖dsRNAによるTLR3の活性増強機構を構造科学的に明らかにし論文化することができた。また並行してTLR7/8のDual阻害剤とTLR7/8との複合体解析にも成功し論文化している。またリソソームにおけるヌクレオシドトランスポーターSLC29A3の欠損は、ヒトの組織球性疾患であるSLC29A3異常症の原因となるが、ヌクレオシド蓄積によるTLR7/8の活性化されマクロファージの増殖を誘導していることも報告することができた。
TLR7が炎症ではなく増殖を誘導するには、DAP10やFcRγなどのITAMアダプターが関与することから、高次複合体を形成する必要がある可能性をある。このような工事複合体の構造解析を検討する。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
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