研究課題
ヒト用7-T MRIと開発済み標本用コイルあるいは小動物用7-T MRIを使い分け、脳解剖実習段階に応じて解剖検体のMRI撮像を継続している。PBS置換やMRI用造影剤添加の影響も検討済みであったが、死後脳をホルマリン保存液中あるいはPBS中に保存した場合のMRI信号への影響について検討するとともに、死後脳から生体脳に類似したMRIコントラストシミュレーション法の開発を行なっている。MRI撮像した検体は可能な限り連続切片にし、顕微鏡画像をデータベース(DB)化する基礎技術を開発している。組織構築の概要を把握するためのKB染色やPerl鉄染色等の特殊染色やチロシン水酸化酵素(TH)やコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)等の免疫染色を行いDB化に着手している。組織画像の歪みを補正し、顕微鏡像やMSI像をMRIに位置合わせし、さらに標準空間に変換するためのソフトウェアツールの開発や、組織像からMRIコントラストを再構成するインフォマティクス開発を行なっている。データ数が増えた段階で、MRI統計解析の手法を応用し、顕微鏡像や質量顕微鏡イメージング像を対象に半定量的に統計解析を行うためのソフトウェアツールの開発に着手する予定である。パーキンソン病(PD)患者の脳幹検体の精細MRI撮像とMRI所見に基づいて選択した部位を切片化し、組織・病理染色を行いDB化することに着手した。質量顕微鏡イメージング(mass spectrometry imaging, MSI)については、実験動物脳検体やヒト脳幹検体を対象として鉄、ミエリン脂質、神経伝達物質等の分布を調べるための条件設定を行っており、パラフィンに埋め込まれたヒト死後脳検体からもMSI情報が取得できることを確認できた。
2: おおむね順調に進展している
解剖検体のMRI撮像は順調に進んでおり(京都大学・花川)、超高解像度で撮像した死後脳幹MRIを生体ヒトイメージング研究で使用される標準脳幹空間に変換する技術を確立し、まずMRIで判別できる脳幹核の標準脳空間における確率マップを作成中である。死後脳のMRI定量(qMRI)信号については、ホルマリン保存液をPBSに置換した後のMRI信号の経時変化については報告がなかったため、現在詳細を検討している。MRI撮像した脳幹検体を連続切片にし、KB染色やPerl鉄染色等の特殊染色やTH、ChAT、TPH等の免疫染色を行い、DB化する研究も順調に進んでいる。組織画像の歪みを補正し、顕微鏡像やMSI像をMRIに位置合わせし、さらに標準空間に変換するためのソフトウェアツールの開発や、組織像からMRIコントラストを再構成するインフォマティクス開発についても予定通り進んでいる。国立精神神経医療研究センター(NCNP)・高尾は、死後脳で頭部MRIを施行するために、病理解剖時にホルマリン固定した脳を適切な形態かつ生体内の脳形態が変形しないような保管を行い、MRI画像が施行できるような状況で脳組織を蓄積している。このような画像撮像を考慮した保管をした病理標本は順調に蓄積されており、画像撮像の倫理承認も取得している。関西医大・矢尾は当初、京都大学をはじめ共用の装置を使用する計画であったが、関西学院大学に導入したMSI装置が立ち上がったため順調に測定を開始することができた。まずパラフィン切片上の分子イオンを検出し得るか、げっ歯類のパラフィン切片を作製し測定し解析を行った。測定に先立つ前処理条件として、脱パラフィンからイオン化補助剤であるマトリックスの条件を検討した。パラフィン切片でもごく少数ではあるが組織由来の分子を検出できることを確認することができた。
研究は順調に進捗しており、MRIと光学顕微鏡情報の統合については、今後病理検体への展開を本格化させる。病理への展開については京都大学のPD症例について脳幹検体の精細MRI撮像とMRI所見に基づいて選択した部位を切片化し、組織・病理染色を行いDB化する研究に着手しており、今後NCNPの検体についてもPD関連疾患の脳幹から順次MRI撮像に進める予定である。NCNPの既存の病理解剖例に関しては、ホルマリン固定組織を画像的に検討後、病理標本を作製して組織学的な対比、評価を行う。新規解剖例に関しては固定後速やかに同様の検討を進める。PD病理データが揃った段階でヒト生体脳MRI研究と合わせて論文化する予定である。インフォマティクス開発については深層学習等の技術の応用にも着手している。パラフィン包埋されたヒト死後脳からの神経伝達物質などの小分子を検出し得る誘導体化手法にも目処がついているが、今後詳細を検討する予定である。凍結切片を解析する場合は脂質や代謝物なども検出対象とする。
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