研究課題/領域番号 |
23H00516
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荻 朋男 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (80508317)
|
研究分担者 |
光武 範吏 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50404215)
真下 知士 東京大学, 医科学研究所, 教授 (80397554)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 環境ストレス / 損傷DNA修復・損傷応答機構 / ゲノムインスタビリティ / マルチオミクス解析 / DNA修復欠損性疾患 |
研究実績の概要 |
環境かく乱因子 (環境ストレス)は、個体・細胞・分子レベルで様々な生命機能に影響を及ぼし、時として生物の生存や種の維持を脅かす。また、環境ストレスはDNA損傷を誘発することで、多くのヒト疾患の発症と密接に関係することが示唆されてきた。本研究では、マルチオミクス解析技術 (short-/long-readゲノム・トランスクリプトーム解析、網羅的蛋白質相互作用解析、DNA修復活性評価、モデルマウス解析など)を用いた横断的アプローチにより、老化やがんなどの疾患発症に関連する、環境ストレス因子 (物理作用/代謝産物)を特定し、主要な環境因子と影響を受ける臓器や疾患との関係「環境ストレス病態相関」を明らかにする。併せて、環境ストレスから生体を防御する「環境ストレス応答・ゲノム修復機構」の作動原理を理解し、その破綻により発症する疾患の病態解明を目指す。 アルデヒド代謝異常を示すモデルマウスや転写共役修復機構に異常を示すモデルマウスの解析から、我々が同定した新規疾患であるAMeD (aplastic Anemia, Mental retardation, and Dwarfism) 症候群の病態理解につながる知見、および、アルデヒドが老化に関与することを示唆する成果を得た。本解析では、DNA損傷であるDNA-蛋白質間架橋 (DNA-protein crosslink: DPC)の発生と修復の遷移をゲノムワイドに検出する新技術DPC-seqを、マウス個体レベルでの評価に活用した。さらに、DPC-seqを応用することで、アルデヒド処理によって生じるDPCがDNAとヒストンの架橋であることが示唆された。また、モデル細胞・モデルマウスの詳細な解析から、DPC除去に関わる転写共役修復の進行には既知の転写共役修復因子CSBのほか、シャペロンタンパクのVCP/p97が重要であることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、各種モデルマウス (環境ストレスに高感受性を示すモデルマウス、「環境ストレス応答・ゲノム修復機構」に異常を示すモデルマウスなど)とマルチオミクス解析技術 (short-/long-readゲノム・トランスクリプトーム解析ほか)を用いた検討により、老化への関与が示唆される環境ストレス因子を特定したほか、「環境ストレス応答・ゲノム修復機構」の異常により発症するゲノム不安定性疾患の1つであるAMeD症候群の疾患発症メカニズム・病態理解につながる新たな知見を得た。さらに、先天的なゲノム不安定性疾患が疑われた症例 (ヒト)の解析から、新規疾患原因遺伝子変異を同定した。これらのことから、本研究は順調に進捗していると考えられる。引き続き、現在解析中のモデルマウス (複数系統)の検討やモデル細胞を用いた分子・細胞生物学的解析を継続するほか、今回新たに同定した疾患原因因子の分子機能解析や疾患モデルマウスの作製と病態解析を進めることで、「環境ストレス応答・ゲノム修復機構」の作動原理の理解や本疾患の病態解明へつなげる。さらに、追加症例 (ヒト)の探索と更なる新規疾患原因因子の特定を継続して試みる予定であり、今後も順調に進捗すると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
ゲノム不安定性疾患症例と病態モデルマウスの解析により、各種環境因子から生じたDNA損傷の生態影響 (リスク評価・病態)の解明に取り組む。様々な環境ストレスに感受性を示すヒト疾患症例 (ゲノム不安定性疾患)から同定された遺伝子変異と患者臨床症状の解析、これらの疾患に関連するモデルマウスの病態解析により、環境ストレスと病態の関係について検討を進める。また、各種モデル細胞を用いることで「環境ストレス応答・ゲノム修復機構」の分子メカニズムの調査を実施する。 環境ストレス感受性マウスの作製を継続して進めるとともに、作製済みモデルマウスの詳細な分子病態解析を行う。モデルマウスの解析にはマルチオミクス解析技術を活用し、ゲノムから個体までの幅広い検討を実施することで、環境ストレス病態相関の解明につなげる。併せて、分子・細胞生物学的手法により、環境ストレスから生体を防御する「環境ストレス応答・ゲノム修復機構」のメカニズムの解明に取り組む。新たに同定した疾患原因遺伝子変異について、当該症例の病態の再評価と追加症例の探索に取り組むほか、本疾患モデルマウスの作製を進める。また引き続き、環境ストレスへ高感受性を示す遺伝性疾患で、これまでに疾患原因が特定されていない症例を対象として、疾患原因変異の探索を行うことで、新規関連因子の特定を試みる。
|