研究課題/領域番号 |
23H00523
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
猪上 淳 国立極地研究所, 先端研究推進系, 准教授 (00421884)
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研究分担者 |
庭野 匡思 気象庁気象研究所, 気象予報研究部, 主任研究官 (10515026)
松井 仁志 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (50549508)
當房 豊 国立極地研究所, 先端研究推進系, 准教授 (60572766)
佐藤 和敏 国立極地研究所, 共同研究推進系, 助教 (60771946)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 雲 / エアロゾル / 南極 / 北極 / 気候予測 |
研究実績の概要 |
①観測船「しらせ」での観測データの解析から、-30℃の環境下でも水雲が優勢な環境であることが確認された。過冷却水滴の存在は船上の高頻度ドローン観測でもプロペラの着氷現象から確認でき、ライダーシーロメーターの後方散乱係数と偏光解消度から、水雲と氷雲を識別する閾値を求めた(Inoue and Sato, 2023)。観測された南大洋上の雲と下向き放射フラックスについて、ERA5再解析データとの直接比較を行ったところ、下層雲の頻度は2倍過大評価、中層雲は50%過小評価していた。また、下向き放射フラックスの極大域のズレから、水雲形成よりも氷雲形成が卓越していることが明らかとなった。特に高度3-4km付近の-25℃前後の環境で形成される水雲の再現性が低いことが明らかとなった。同様の解析を領域気候モデルNHM-SMAPでも調査したところ、ERA5と類似した問題が見られた。 ②エアロゾルの長距離輸送を伴う「大気の川」の事例では、西インド洋の高クロロフィルの海域を起源とするバイオエアロゾルが対流圏中層に輸送され、南極域で水雲から氷雲に変質する可能性を雲粒子センサー(CPS)ゾンデと後方流跡線解析から示した(Sato and Inoue, 2023)。同様の雲の変質過程は、2023年9月の「みらい」北極航海でも観測された。カナダで発生した森林火災由来の有機エアロゾルが「大気の川」に伴う長距離輸送によって北極海上の対流圏中層に貫入し、水雲の一部が氷雲の層に変質することがCPSゾンデやドローンのエアロゾル観測データから示唆された(投稿中)。 ③雲物理過程の高度化を進めている極域気候モデルNHM-SMAPを用いて、グリーンランド氷床上降水の国際相互比較(Box et al., 2023)、Polar CORDEXが主導する北極域モデル国際相互比較プロジェクト2件に参画し、計算結果を提出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
両極の雲の観測データを取得し、事例解析については論文投稿・出版を行い、成果が出始めている。予定していたライダーシーロメーターの導入も予定通り調達した。次年度にはエアロゾルの分析結果が出始め、数値モデルの感度実験を行う準備も整い始めていることから全体としては順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
①南極観測・解析:2022年度の観測船「しらせ」で実施したマイクロ波放射計とライダーシーロメーターで取得された雲底高度・雲の相状態の情報を用いた解析結果を論文にまとめる。また、2024年度の「しらせ」の南極航海で追加の気象観測データを取得する。エアロゾル試料及び海水中の粒子解析から、海洋起源の氷晶核粒子(ダストあるいはバイオエアロゾル)が南極域で局所的に卓越するのか分析する。 ②北極観測・解析:2023年度の研究船「みらい」の北極海航海で取得した雲の相状態の観測結果を元に、陸上の森林火災による北極海への長距離輸送の影響を調査し論文にまとめる。前年度に得られた南大洋上でのエアロゾル輸送過程と雲の変質過程について対比する。 ③気候モデル:観測で得られた極域の雲物理に関する現場データを用いて、領域気候モデルNHM-SMAPの雲表現に関する性能向上を図る。感度実験を通じて①で得られた雲と気温の関係式や放射フラックスの計算精度が改善されるかを調査する。更に、大気の川に伴う水蒸気・エアロゾル輸送が、南極内陸域での雲・降雪過程に及ぼす影響を定量的に求めるため、その高度化されたモデルによる氷床表面質量収支の計算結果について、特に降雪量が改善されるのかどうかに着目して精度評価を行う。また、全球気候モデルCAM-ATRASを用い、「しらせ」南極航海や北極ニーオルスン観測基地で得られたエアロゾルの数濃度や化学組成、氷晶核粒子の数濃度などの検証を行う。両極域における氷晶核粒子の起源寄与を推定するとともに、各起源の氷晶核粒子が雲の物理特性や放射収支に与える影響を評価する。
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