本研究では宮城県および山形県における獣害を実地見分および聞き取りによってフィールド調査した。その結果、猪・鹿による農作物被害地の範囲が拡大していることが明らかになった。とくに猪による被害は甚大であり、なかには耕作放棄する生産者も現れている。対策として、地元の猟師による駆除も行われ、その獣肉が食用に利用されることも少なくない。しかし、販売用へ流通することは少なく、多くが自家消費されている。獣肉が換金されれば、その収入目当てに狩猟者が増えることを期待できるが、一部は廃棄されるなど、市場価値が高いとは言えず、狩猟者数の増加を後押しするには至っていない。今後も、獣肉の流通経路が確保されなければ、獣害を抑えることは困難であり、被害地の拡大が想定される。 フィールド調査のほかに、近世の奥羽諸藩の藩日記などの史料調査を行い、近世の猟師が獣肉を売却した記録を探した。しかし、そもそも猪や鹿を捕獲していた記録が乏しく、その売却益を実証することは叶わなかった。他方で、弘前藩では藩側が百姓らの領民に雉子の捕獲を奨励し、雉子を上納させていた記録を多数見出した。それらを分析したところ、弘前藩では17世紀から18世紀半ばまで多くの雉子を捕獲し、上納した領民へは代銭が付与されていたことが判明した。その雉子は藩主らが食し、また、贈答品としても利用されていた。 しかし、18世紀末以降に雉子が減少すると、藩側は雉子の捕獲を領民に義務づけた。藩主らが雉子の肉を味わうため、領民には過重な負担が強いられていた現実が明らかになった。こうした史料調査によって、雉子の肉を通して、藩主側と領民の一側面を浮き彫りにすることができた。 これらの調査で得られた知見を利用して、高等学校の公民科目「公共」において、環境問題の一角としての地域教材を提供する。そこでは、先人と現代人の労苦を対比し、あわせて、自然環境の変化にも触れる予定である。
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