昨年度の奨励研究において、記述の質の向上を目指して国語科と連携した教材を開発することで、作品に対する児童の理解が深まったことを確認した。しかしながら、国語科との連携により、美術作品の鑑賞から感じ取ったり考えたりしたことの記述の質は向上したものの、カリキュラム・マネジメントの観点から連携できた教科は国語科のみであったということが課題として残された。 そこで本研究では、これまでの実践研究で得られた成果を発展させ、国語科以外の教科とも連携した教材開発を行うことで、さらに深く広がりをもった鑑賞学習の実現を目的とする。具体的には、算数科、理科、社会科、音楽科、道徳科との連携をした題材開発を行った。例えば、1年生の算数科「いろいろなかたち」の単元目標である「立体について、箱や缶を用いて立体を組み立てる活動や、立体の面に着目して写し取った形を生かして絵をかく活動などを通して、ものの形を認めたり、形の特徴を考えたりするとともに、形に親しみながら学ぶ態度を養う。」ことで得た知識・技能を活用して、図画工作科鑑賞領域では、葛飾北斎作《神奈川沖浪裏》から「まる」、「さんかく」、「しかく」といった形を認めて写し取り、作品の中の形の特徴を考えた。 日本美術教育学会研究チームが 2015 年に実施した「鑑賞学習についての全国調査」によれば、約 45%の教師は教材不足と時間不足から学習指導要領における「鑑賞の能力」を十分に指導できていないという現状がある。今回の研究で開発した題材にくわえて、これまでの研究で開発した題材を精査し、作成した授業案を冊子にして大阪市をはじめとする全国の小学校教員や日本美術教育学会員、研究者に配布した。また、研究に基づいた発表や論文の投稿を2024年度中にする。これらにより、小学校教師の鑑賞学習への積極的な取り組みを支援できる。
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