本研究は、中学校の教育課程にグローカル・シチズンシップの概念を取り入れ、中学生に地球市民としての自覚を持たせることを目的としている。そのため、地域社会と世界の両視点から物事を考え、積極的に社会に参画する素地を養うことを目指した。特に、欧州の学校教育で広く採用され、市民性育成の指針となっている「民主的な文化への能力参照枠(RFCDC)」に着目している。 現在、RFCDC参照枠を日本の中学生に援用して授業に導入した先行研究は現時点では見当たらない。そこで、グローバル・シティズンシップ教育の専門家と協力し、中学生向けのRFCDC参照枠の日本語訳に取り組んだ。その後、以下のような授業を実施した。英語の授業では、イラン、スロバキア、ジョージア、台湾の若者と、Eメールや動画の交換、オンライン交流を行った。公民の授業では、学習した内容について議論の時間を設け、死刑制度、同性婚、出生前DNA判断、臓器提供意思カードなどの現代的な課題について討論した。2教科の特性を生かし実社会と結びつける実践的な授業を展開した。 授業の効果は、RFCDC参照枠についての事前と事後のアンケート、および公民の議論に関するアンケートから分析した。その結果、以下のような効果が確認された。生徒は、海外の若者との交流や現代的な課題についての議論が将来に役立つと考えていた。また、今回の授業に関わるRFCDC参照枠の項目について、事前と事後の比較においてポイントの上昇率が他の項目よりも高かった。 これらの結果は、RFCDC参照枠に基づいた授業が生徒の認知的・社会的能力の向上に寄与することを示している。また、異文化交流や議論を通じて、生徒たちは自分たちの将来に対する視野を広げることができた。本研究は、中学校の教育課程にグローカル・シチズンシップの概念を取り入れることの有効性を示している。今後も、実践と研究を進める必要がある。
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