本研究は、国語教育における間接引用の教案作成・教材開発の基礎段階として、適切な「間接引用」を支える文章作成能力の一端を明らかにすることを目的とするものである。研究期間においては、「論理的な文章では「間接引用」がどのように使用されているのか」を明らかにすることを目指すとともに、現行の初等・中等教育教材との連結可能性も検討した。 まず、論理的な文章における使用実態を確認するために、学術論文における間接引用の調査を行った。しかし、(1)間接引用の現実の使用は多様な形式を有する、(2)他文献を参照しているものの、引用とは捉えられない例も存在する、(3)調査方法を示した先行研究がない、などの理由で、用例の採取方法について予想以上の試行錯誤を余儀なくされた。そのため、調査の進捗は、2024年4月時点で約60編(「間接引用」約200例、「直接引用」約300例)と、分析に入るには追加調査が必要な状況に留まったが、その一方で、情報源(「田中(2000)は/によると」など)を含む文を「1」とし、文をまたいで表現形式が変われば「2」、変わらなければ「1」とカウントしつつ、「非引用」というカテゴリーを立てて集計することで、調査の再現可能性は確保できた。この点は、本研究の現時点での独自の成果も一つとして挙げることができる。 初等・中等教育教材との連結可能性については、譲歩表現「A。たしかにB。しかしC。」との接続を検討した。譲歩表現は、間接引用を起点とした文連鎖よりも限定的な文脈しか構成できないが、「既存の見解を自分のことばで示し、それに対する反論を示す」という点で共通点を持つ。譲歩表現と間接引用を教材としてどのように接続するかについてはさらなる検討が必要であるが、初等・中等教育における定番の文型である譲歩表現と適切に接続することで、段階的な「間接引用」の導入も可能になるものと思われる。
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