理科において、学習者の素朴概念を科学概念へと転換するための方略が長年研究されている。特に、運動方向に力が働いていると考えるMIF(Motion Implies Force)素朴概念は、1982年に指摘されて以来、各国で調査されてきた。日本では、中学3年「力と運動」単元でこの素朴概念の転換が図られることが多い。しかし、力は目に見えないため生徒にとって考えづらく、素朴概念は保持されやすい。力は本研究では、「力と運動」単元において使用できる力を可視化できるiOSアプリ「TabletForce」を開発した。 力学台車にタブレット端末を固定し、力学台車に働く力を画面に表示させることができる。表示するのは、重力、垂直抗力、手で支える力であり、重力は斜面に垂直な分力と斜面に平行な分力も表示させる。力学台車が水平面上で等速運動する時は力が働いておらず、斜面の加速運動時は一定の力が働いていることが確認できる。 実際に中学校3年生を対象に授業を行なった際、開発したアプリは問題なく機能した。単元の前後で質問紙を用いて生徒の概念理解の状況を調査した。アプリの使用により、速度に比例した誤った力を選択する生徒の割合は,特に斜面の下降運動の問いで減少すると分かった。また、斜面を落下している物体に働く力を正しく図示できる生徒が増加する傾向にあった。 授業で使用した際は画面にベクトルのみが表示される仕様であったが、生徒が何の力かを理解するのに困難がみられたため、力の名称を記述できるように変更した。授業においてもアプリに表示される力の意味を生徒が理解するための方略が必要であると考えられる。
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