本研究は,①「知的障害教育」と「日本語教育」両分野の教材に関する共通点と相違点の整理,②双方の分野に寄与する言語能力育成を志向したデジタル教材の開発及びWeb公開,③公開教材の活用実態に関するアンケート調査及び分析,以上3点に取り組んだ。 ①について,既出の論文等を基に整理した。対象者が知的障害のある学習者である「知的障害教育」と,対象者が日本語を母語としない外国人学習者である「日本語教育」は,学習対象や教育目的で相違がある。反面,両方の教育分野で「わかりやすい」日本語の使用等,学習者が情報へアクセスしやすくなるという視点での配慮が求められていることが共通点として見えてきた。また,双方の分野の既存教材の特徴を探ったところ,「楽しみながら学習できる工夫」「実際の生活につながりやすい題材」「学習者の情報アクセスへの配慮」といった共通項が双方の分野の教材に見られた。 ②について,言語能力育成を志向したデジタル教材を新規開発した。筆者がこれまでの研究成果として公開中の 「Teach U~特別支援教育のためのプレゼン教材サイト~(以下,Teach U)」内の特設ページ「にほんご×Teach U」にて,2023年度は,オノマトペがその名の通りにアニメーションで動く教材等,30点を追加公開することができた。 ③について,日本語教育の指導者を対象に,知的障害教育向けのデジタル教材(Teach Uで公開済み)の活用実態についてアンケート調査を実施した。回答結果より,Teach Uのデジタル教材が,編集可能なPowerPointファイルの状態でダウンロードできる特徴をもつことから,異分野の教材であっても,指導者自身がカスタマイズして授業を新しく構想したり,教材に関心を向けたりしている可能性が伺えた。知的障害教育向けのデジタル教材が,日本語教育分野でも活用できる可能性があることが示された。
|