交通事故現場では投げ出された歩行者や二輪車乗員が路面上を移動し、繊維等が付着することで路面痕跡を形成することがある。路面痕跡からの事故関係車両の速度算出等において、着衣人体-路面間の摩擦係数が必要となるが、速度、着衣の素材、人体挙動及び路面条件等の状況に応じた摩擦係数を適用することを目的として、牽引及び切り離しの2種の手法で摩擦係数を計測した。 牽引法では、低速(クリープ走行)で、ダミー着衣の素材を綿とナイロン、路面条件を乾燥、湿潤とした計4回の実験を行い、それぞれの牽引荷重を計測する手法で摩擦係数を求めた。その結果、全ての条件で0.6~0.7程度の値となった。 切り離し法では、着衣の素材を綿とし、低速域(約20~25km/h)及び高速域(約50km/h)で走行中の車両から、直立状態のダミーを落下させる計6回(低速域、高速域3回ずつ)の実験を行い、落下位置から停止位置までの移動距離を計測する手法で摩擦係数を求めた。その結果牽引法で求めた値に近い0.6~0.9程度の値が得られた。なお、高速域では0.6~0.7程度の値となっており、低速域の摩擦係数のばらつきが比較的大きかった。 牽引法ではダミーはほぼ一定の姿勢を保つが、切り離し法では路面上をダミーが転動したり、姿勢を変えたりといった挙動も認められた。 本実験の範囲において、速度、着衣の素材、人体挙動及び路面条件等が異なっていても同程度(0.6~0.9)の摩擦係数が適用可能であることが示唆された。
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