研究課題
がん化学療法で抗VEGF剤を使用する患者は消化管出血を起こすリスクが高い。消化管出血はがん治療を困難にするため、がん患者の消化性潰瘍の予防は重要である。プロトンポンプ阻害剤(PPI)は消化性潰瘍治療の第一選択薬だが、がん細胞においてPPIがVEGF発現を上昇させ、抗VEGF剤の治療効果が減弱することが報告されている。一方、ボノプラザンは化学構造が異なることから、がん細胞のVEGF発現に及ぼす影響がPPIとは異なる可能性がある。本研究では、新しいタイプの胃酸分泌抑制薬であるボノプラザンががん化学療法の治療に影響を与えない消化性潰瘍治療薬となる可能性を模索するため、PPIとボノプラザンのがん細胞のVEGF発現に与える影響を比較した。ヒト大腸がん細胞株(LS174T)を始めとする様々ながん細胞株において、PPIによりVEGF mRNA発現及びVEGFタンパク分泌が上昇したが、ボノプラザンはそれらを上昇させなかった。ドッキングシミュレーションによって計測したVEGFの転写調節因子の一つであるエストロゲン受容体(ERα)に対する結合親和性はボノプラザンの方がPPIよりも低かった。PPIによるVEGF発現の上昇は薬理学的なERα阻害により打ち消されたが、ボノプラザンのVEGF発現に与える影響に変化はなかった。本研究の結果から、PPIは固形がん細胞株においてERαを介してVEGF発現を上昇させるが、ボノプラザンはERαに対する作用がPPIより低く、VEGF発現を上昇させないことが明らかになった。
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Drug Development Research
巻: 84 ページ: 75~83
10.1002/ddr.22013