ループス腸間膜血管炎(LMV)は、全身性エリテマトーデス(SLE)にみられる合併症の一つである。症状は、腹痛など感染性腸疾患の症状に類似するが、血管炎を生じ、腸管出血を伴う場合は予後が悪い。また、確定的な診断基準がなく早期診断・治療が困難である。一般的な治療はステロイド投与であり、病態に特化した副作用の少ない治療法の開発が望まれる。我々は、誘導LMVマウスモデルを樹立し、LMVの病態解析を進めている。解析過程で、LMV誘導により糞便中で有意にプロピオン酸が増加することを明らかにした。プロピオン酸は、低用量でSLEの病態改善に、逆に、高用量で血小板の活性化を引き起こす報告もある。誘導LMVマウスモデルは血管炎発症前から血小板の活性化が観察されることから、プロピオン酸の増加が、そこに関与しているのではないかと考えた。そこで本研究は、誘導LMVマウスモデルを用い、高用量のプロピオン酸が病態の発症や悪化にどのように関与するのかを検証した。 まず、LMV誘導3週間後の糞便からDNAを抽出し、定量PCRを用いプロピオン酸産生菌の同定を行った。誘導群では、プロピオン酸の産生菌であるBacteroidetes fragilisが増加傾向にあることが確認された。次に、LMV病態を誘導し、高用量のプロピオン酸を自由飲水させた。その結果、予想に反しLMV誘導による血小板の活性化や血小板数の低下が抑制された。また、回腸の病理学的解析では、プロピオン酸投与による血管内皮細胞の形態や活性化に変化が見られなかったが、血管壁の肥厚が抑制された。LMV誘導により血管平滑筋は増殖能をもつ合成型へ分化するが、プロピオン酸投与により合成型の血管平滑筋が減少した。今後は、プロピオン酸投与によって変化した血管平滑筋の分化にも着目し、プロピオン酸がLMVの病態にどのように関与しているのかさらに検証を進めていく。
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