○研究目的:近年,画像定量が一層重要視されるようになり,脳の拡散イメージングにおいても定量評価として見かけの拡散係数(ADC)が使用されている.脳血管拍動及び呼吸によって生じる脳実質の周期運動がADCの過大評価の原因になっているが,ADC変化の主因は脳の拍動を外力として脳実質内の水分子が揺り動かされること(水分子の揺動)であることが示唆された.しかし,このADC変化において,水分子揺動が占める正確な割合や,水分子揺動の速度成分,脳の各領域間のADC変化の違いなど,多くの重要事項が未解明である.そこで本研究では脳実質の周期運動がADCを変化させる機序を解明することを目的とした. ○研究方法: 健常成人9名を対象とした.心電同期しながらb値を変化させて,従来の動き補正を使用しない拡散イメージング(non-MC)と独自開発した一次及び二次の動き補正拡散イメージング(1st-MC 及び2nd-MC)で脳を撮像し,心周期における脳のADC変化(水分子揺動量に相当)を解析した(揺動MRI). ○研究成果:1st-MCと2nd-MCを使用したにも関わらず,心周期において脳の白質のADCに変化がみられた.前頭葉,後頭葉及び側頭葉白質間の心周期中のADC変化率をnon-MC,1st-MC及び2nd-MCのそれぞれで比較した結果,bulk motion補正拡散イメージングの使用の有無に関わらず,領域間のADC変化率に有意差は認められなかった.このことから心周期における脳実質のADC変化は白質の領域に依らず,その主因は脳拍動自体のbulk motionではなく脳の拍動によって生じる水分子の揺動である可能性が高いことが明らかになった.今後,呼吸によって生じる脳実質の周期運動の水分子揺動への寄与を解明し,水分子揺動を完全定量解析する手法を確立したい.
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