犯罪現場に遺留された生体試料のスクリーニングは、法科学鑑定において重要な工程である。性別特異的なDNA/RNAや体液特異的なmRNAは、スクリーニング検査の有効な指標であるが、PCR/RT-PCR法による検出は時間・手間がかかるという課題がある。本研究では、等温核酸増幅反応であるLAMP/RT-LAMP法やRPA/RT-RPA法を利用し、スクリーニング検査の迅速化・簡便化を目的とした。また、pH指示薬による色調変化やラテラルフローストリップなどの目視検出技術を組み合わせることで、実験室だけなく犯罪現場で利用可能な方法の確立を目指した。 まず、唾液特異的なmRNA(HTN3)の反応系を確立した。等温増幅反応の検出感度がPCR法に比べて低いという欠点を克服するため、2段階の等温増幅反応(1段階目:RT-RPA、2段階目:LAMP)を行った。結果、従来のRT-qPCR法と同等の検出感度を示し、RT-qPCR法よりも迅速・簡便にHTN3が検出可能であった。一方、ラテラルフロー検出では非特異的な増幅による偽陽性を示した。また、pH指示薬を使用した目視検出では、RT-RPAの成分によりpH変化が抑制され、明確な結果が得られなかった。今後、反応及び検出の条件を改善し、目視検出に適した方法を確立する予定である。 次に、女性特異的なnon-coding RNA(XIST)を指標として、RT-LAMP法とpH指示薬を組み合わせた方法(Colorimetric RT-LAMP法)を開発した。反応は65℃・30分で進行し、反応後の溶液の色を目視で確認することで結果の判定が可能であった。今回開発した検査法は、女性由来試料の探索において有用な方法と成りえる。今後、ダイレクト法の導入やラテラルフロー検出の適用を検討する。
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