研究実績の概要 |
2023年度においては、本研究全体のパースペクティヴを確定するために、多方面から調査・研究を行ない相応の成果を得た。まず、アメリカの戦時情報局(Office of War Information, 以下OWI)に関する文献資料を整理するなかで、当時のOWIの音楽副部長を務めていたBess Lomax Hawesの役割に着目し、彼女の意向が戦時中の音楽政策に大きく反映している可能性を探った。また、戦意高揚という点からは、1942年にシンシナティ交響楽団が委嘱した18のファンファーレ(ピストン、カウエル、ミヨー、トムソン、コープランドなどによるもの)を検討し、その「戦争協力」的な特性について分析的な探究を行なった。また、戦時慰安にかんしては、いわゆる「Vディスク」のレパートリー、拡がりについて、さらにはArmy Hit Kitについて調査および考察を行なった。一方で、民間側からの戦争協力の事例として注目されるのが、いわゆるカントリー・ミュージックである。カーソン・ロビンソン、デンバー・ダーリング、フレッド・カーヴィーらによる戦時中のカントリー・ソングにおいては、真珠湾、原爆などがダイレクトに取りあげられているのにくわえて、朝鮮戦争期においては北朝鮮に対する批判を行なうなど、民意をきめ細かく拾っている事例が多数観察できた。しかし、朝鮮戦争、およびその後のベトナム戦争などにかんしていえばOWIのような直接的な機関が存在しないだけに(その後継としてのCIAはあるものの)、国家的なレベルでの音楽による戦争協力は確認できていない。また、イラク戦争についてもいくつかの調査を行なっているが、こちらはまだ十分な資料を得られずにいる。以上、2023年度において研究領域の確定は終了し、2024年度以降は、個々の事例のより詳細な研究に向かう予定である。
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