造形芸術と光学見世物の間を問題とする本研究1年目にあたる2023年度は、ウィーン電気技術博覧会の特設電気劇場の振付に続き、電化された宮廷歌劇場のため『人形の精』を振り付け、その成功により1919年の歌劇場改組までバレエマスターを務めたヨーゼフ・ハスライターのスペクタクル・バレエ(Ausstattungsballet)について、新たな資料収集と分析を行った。 資料はウィーン国立演劇博物館をはじめとするダンス・アーカイブ所蔵の台本、振付ノート、楽譜をはじめとする一次資料にあたった。また視覚を活性化する具体的な手法とその効果を新聞雑誌の批評も収集した。 具体的には、二回のドイツ、オーストリア複数都市にて図書館、公文書館での資料調査を行ったところ、『エクセルシオール』および『人形の精』の未公開、未発見のものを含む作品資料を得ることができた。前者については、過去に行った台本分析および公演評と突き合わせた上、今年度の論文にして公開する予定である。後者については、『人形の精』の写真コレクションの分析の中で、映画の前段階の光学複製メディアである写真と舞踊の歴史的関わりを示す、貴重な資料が含まれていることが明らかになった。これまで写真技術と舞台芸術の発展史のはざまで目を向けられなかった二つの系譜ーースタジオ撮影のダンサー肖像と、劇場撮影の舞台記録ーーを析出し、メディア史の観点から裏付けた論考を、学会誌に投稿した(査読中)。写真コレクションと併せて、19世紀の写真の発展を開発と同時に知らせる雑誌資料からは、明かりの記録媒体として写真および撮影照明を捉える視点が得られた。
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