• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実施状況報告書

「美術学(Kunstwissenschaft)」の可視化 ─── 比較発生学のアトラス的再構築

研究課題

研究課題/領域番号 23K00145
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

前田 富士男  慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (90118836)

研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2026-03-31
キーワード造形芸術概念の成立 / ゲーテの建築論 / カント「判断力批判」 / 発生学 / オーダー概念 / クオリア / アドルノ / 品質問題
研究実績の概要

本研究は、芸術史研究・芸術学において、音楽史/音楽学・文学史/文芸学・舞踊史/舞踊学などの個別芸術学が成立しているにもかかわらず、美術史領域で個別芸術学「美術学」が未だ成立していない基本課題に取り組むものである。ドイツでは芸術学(Kunstwissenchaft)一般研究が基本的に美術学(Kunstwissenschaft)を包摂しているものの、個別芸術学と呼びうる水準に達していない。
本年度はまずこの課題に取り組み、ヨーロッパにおけるいわゆる美術(fine arts)概念を検証しつつ、ドイツ18世紀後半における「造形芸術(bildende Kunst)」概念の成立を究明した。この概念は、レッシングの「ラオコオン論」に端緒を持つとしても、最重要な契機は、ゲーテによるゴシック建築論(1780-)、またカントの『判断力批判』(1780)における「美」の否定と「造形(建築・彫塑)」概念の提示にある。この研究成果は2023年12月の形の文化会第77回フォーラムにて「造形芸術は無力か有力か──芸術の品質とオーダー概念」と題する口頭発表・質疑を行った。この内容は、アドルノ研究を付加した論文として同学会『形の文化研究2023』に投稿し、目下印刷中。この過程で、忘失されているオーダー概念を検討し、2023年6月に慶應義塾大学大学院SDM研究科で「オーダーズ・エンジニアリング」に関する特別講演を行った。
また2024年2月に「造形芸術概念のリノベーション」と題する研究会を慶應義塾大学三田キャンパスにて開催した。申請者の「造形芸術概念を『判断力批判』に読む」の発表と画家・映像作家地場賢太郎氏招聘による「映像作品における時空間のうごき」の講演と討議を実施した。これは、研究協力者によるワークショップ形式で実施し、今後も継続して行う。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2023年度前半は体調不良にて、大学病院での加療・入院が必要となり、そのために年度内のドイツ、スイスへの研究滞在が実施できなかった。しかし年度後半には回復し研究計画の進展をみた。2024年度以後の活動に問題ないことは、担当医師の診断から確定している。
本研究は日本では全く着手されていない「造形芸術学基本用語アトラス」の実現を目指しており、申請者と中堅研究者の共同作業が不可欠である。そのために2024年2月の研究会は、映像作家地場賢太郎氏のほかに8名の大学教員・美術館学芸員の参加をえて、ワークショップ形式で実行した。今後もこの方式を本活動の中核とする。ここでは「造形芸術」概念をひろく検討したが、これからもさらなる中堅研究者の参加を計画しており、基礎概念のリストアップと外国文献・資料の集成と検証をしっかりと進捗させる。
なおドイツの研究機関ではベルリンのバウハウス・アルヒーフが改築のために長期休館中で連絡に不備も生じ、研究上の課題となってきたが、2025年には再開の見通しで、研究の進捗も好転すると思われる。
申請者は、本研究と並行して、ゲーテ自然科学研究のいわば中核をなすゲーテ晩年の個人雑誌『形態学誌』(2巻4冊)の研究・翻訳を京都・神戸の研究者と共同作業として進めている。これは、本研究計画にも連動する内容で、ほぼ共同作業の終盤を迎えており、その点で申請者の研究の進捗に貢献している。とくにここではゲーテにおける比較解剖学、発生学に関する新知見をえている。
本研究は植物学・動物学における発生学、とくにヒトの受胎・胚形成・骨格形成などの医学・生命科学領域の研究を導入する必要があるが、申請者の体調不良からドイツ・ドレースデン、ライプツィヒほかの調査滞在が実行できなかった。この点は、2024年度に大幅な改善にむけて努力したい。

今後の研究の推進方策

2024年度は、「造形芸術学基本用語アトラス」全体のアウトラインを確定する。その枠組みは、形式概念における形態学と色彩学、イコノロジーの領域における造形表現と言語表現との交錯、そしてデザイン・メディア問題になる。
本研究の重点は、生命科学における発生学の知見を造形作品の制作過程に接合する理解にある。この点でゲーテにおける形態学研究と画家・医学者C.G.カールスにおける厖大な解剖学・産科学研究の交流は、国際的にみても未だ研究成果が乏しい。この点で、本年度はカールスの活動した機関であったドレースデン美術学校、また今日のドレースデン工科大学内の医学部と大学付属病院、ドレースデン医学アカデミーにてカールスの資料、とくに解剖図を調査する予定である。
形態学と色彩学では、メタモルフォーゼとオート・ポイエーシスを縦軸とし、形態表現における明暗、色彩では無彩色が横軸となる。この領域では、研究協力者の中堅・若手のメンバーの協力と活動を推進したい。
本研究の基盤は、造形表現と言語表現との原理的交通問題の解明にあり、イコノロジー問題では個別の作品研究ではなく、造形表現あるいは映像表現と言語表現との異同を追究する。そのために言語学・哲学領域の研究者の協力をえなくてはならない。これは大きい課題ゆえ、本年度に速やかに活動課題を設定し、専門研究者の招聘を実施したい。この課題では外国の研究者、たとえばチューリヒ大学ケルステン教授らの招聘とシンポジウム開催を本年度末に実現する予定である。

次年度使用額が生じた理由

2023年度前半に申請者の体調不全から入院・加療が必要となり、年度後半には回復したもののコロナ禍継続の危惧もあってドイツへの研究調査出張を控えた。そのために次年度使用額が生じた。
その2024年度内の使用については、ドイツ・ドレースデン工科大学内の医学部・大学付属病院、また美術アカデミー、さらにライプツィヒ大学・大学アルヒーフ、ヴァイマルのゲーテ・シラー・アルヒーフ、およびスイスのチューリヒ大学とベルン・パウル・クレー・センターへの2回の出張、もしくは1回の出張期間の延長に手当したい。すなわち申請者の海外旅費の執行に使用予定である。またチューリヒ大学ケルステン教授の招聘旅費も可能な範囲にて実現を試みたく、この招聘旅費の使用も検討している。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)

  • [雑誌論文] 造形芸術における<様式の葛藤>と<オーダーの葛藤>2024

    • 著者名/発表者名
      前田富士男
    • 雑誌名

      形の文化研究

      巻: 17 ページ: ─ ─

    • 査読あり
  • [学会発表] 造形芸術は、無力か有力か ── 作品の品質とオーダー概念2023

    • 著者名/発表者名
      前田富士男
    • 学会等名
      形の文化会
    • 招待講演
  • [学会発表] ポリネーションとしてのイメージ行為── 建築と音楽にみるオーダー2023

    • 著者名/発表者名
      前田富士男
    • 学会等名
      慶應義塾大学大学院SDM研究科特別講演
    • 招待講演

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi