研究課題/領域番号 |
23K00149
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研究機関 | 大阪音楽大学 |
研究代表者 |
能登原 由美 大阪音楽大学, 音楽学部, 講師 (60379865)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 戦死者追悼 / 戦争レクイエム / ブリテン / 戦争のトポス / 戦争の記憶と音楽 / 第一次・第二次世界大戦 / イギリス / 日本 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀終わりから20世紀初頭にかけて見られた音楽による戦争表象の変容について、イギリスの作曲家による作品に焦点を当てて考察するものである。対象とするのは、第一次世界大戦から戦間期にかけての作品で、「戦争」を主題、またはそれに関連して創作されたものである。最終的には、第一次世界大戦以降顕著になった「戦死者追悼」の系譜が、多くの戦争に見舞われた20世紀、また21世紀以降の社会にどのように受け継がれていくのか、戦争体験と記憶の継承という観点にも有益な示唆が得られるものと考えている。 2023年度は、以下の3点を行なった。①対象楽曲に関する資料収集、ならびに音楽雑誌Musical Timesの記事調査。これらについては、大英図書館、エルガー生誕記念館、ホルスト・ミュージアム、ブリテン・アーカイブなど、イギリス国内にある図書館・資料館で行なった。Musical Timesの記事調査では、楽曲の受容状況や「戦争」に対する社会的観念の変化を明らかにするための資料を得ることができた。②音楽による「戦死者追悼」に関する予備的調査。2つの世界大戦は「戦死」に対する現代的価値観の起点と推測されることから、まずは現在に至るまでの事例(イギリス、アメリカ、日本)を調査し、このうち日本についての考察内容を、2つの国際会議(Music, Research and Activism:ヘルシンキ大学、Memory Studies Association, Memory and Trauma Working Group:オンライン参加)にて報告した。③ブリテンの《戦争レクイエム》についてその特質を論じることで、「戦争レクイエム」の特質をあぶり出すべく考察を行い、京都市立芸術大学の研究紀要にて論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度となる2023年度の予定は、①考察対象の作品に関する資料収集、②Musical Timesなど当時の音楽雑誌の記事調査、の2点であった。いずれも、大英図書館、エルガー生誕記念館、ホルスト・ミュージアム、ブリテン・アーカイヴなど、イギリスの図書館・資料館での調査を通じて、予定していた計画をほぼ達成することができた。 上記の調査をもとに、ブリテンの《戦争レクイエム》についての考察を行ない、論考として発表した。 さらに、本研究の予備的調査であると同時に、本研究も踏まえた今後の発展的研究課題を導くための調査と考察を行ない、2つの国際会議(Music, Research and Activism:ヘルシンキ大学、Memory Studies Association, Memory and Trauma Working Group:オンライン参加)で報告した。それらの発表を通して、国外の研究者との連携の可能性を掴むとともに、本研究の内容をさらに発展させる糸口を得たことが、上記の自己評価の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究内容を受け、論点を次の2点に絞って考察を進める。①「戦争」の音楽表象を「トポス」の視点から分析した場合、19世紀以前との違いはどのようなものであるのか、②「戦死」に対する価値観や社会的観念、ナショナリズムとの関係性がいかなるものであったのか。以上について、楽曲分析や作品の受容状況の調査を通じて明らかにし、20世紀以降に顕著になった「戦死者追悼」の様相を、音楽を通して追究する。 具体的には次のように進めていく。対象となる作品のうち、演奏頻度や批評、先行研究の状況などをもとに、音楽的、社会的影響力の大きい作品をさらに抽出した上で、a) 楽曲分析、b) 上演と批評も含めた受容状況の調査を行なっていく。a) については、19世紀までの「戦争」の音楽表象のトポスとの比較分析を行ない、20世紀以降の特質を明らかにする。b) については、社会状況との直接的な関連性の有無などを調査する。以上をもとに、戦争や戦死者追悼と、社会的観念との関係性などを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度では、①資料収集(国内とイギリス)と学会発表(広島または浜松)、②英語による3本の論文投稿と国際シンポジウムでの発表、を予定している。 ①については、昨年来の円安と航空運賃の値上げを背景に、とりわけ国外への旅行費用が当初の予想以上に高くなっていること、②については、英文校正費用が当初の予定以上に数多く発生することになったこと、以上により、今年度分の費用を次年度に回すことで不足分を補填することにした。
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