研究課題/領域番号 |
23K00153
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
尾関 幸 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (10361552)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | フーゴー・へリング / アルフレート・ヴェーバー / 文化社会学 / ルイス・サリヴァン / 有機的建築 / ドイツ工作連盟 / ヘンリー・ソロー |
研究実績の概要 |
2023年度はフーゴー・へリングの思想的背景を究明するため、へリングの著作の解析と並行して、先行するアメリカの機能主義建築の祖ルイス・サリヴァン(1856~1924)および思想家ヘンリ・デイヴィット・ソロー(1817~1862)、更には社会学者アルフレート・ヴェーバー(1868~1958)についての調査を進めた。中でもへリングが1952年の講演で直接言及し、恐らくは個人的面識もあったヴェーバーについてはその著作の分析を進める中で複数の発見があった。 視覚文化と社会生活の相互作用について多くの論文を著わしたヴェーバーについては、今世紀初頭に全集が刊行されるなど再評価の機運がみられるものの、その業績の大半は史料的価値に基づく評価に委ねられている。本研究では特に講演録「文化表現と技術」(1928)と「我々の時代の建築」(1952)に着目し、特に前者のテキスト分析とともにその背景についての調査分析を行った。その結果、この講演がドイツ工作連盟の要請に基づいて行われたものであること、その発端は更にその前年あたる1927年にシュトゥットガルト近郊のヴァイセンホーフで開催された「住宅展」に遡ること、並行して国際近代建築会議とドイツ工作連盟との葛藤があったこと、その中心にフーゴ・へリングの関与があったこと等が、判明した。講演録全文は、邦訳に解説を付して『西洋美術研究』21号に掲載された(現在印刷中)。 草創期のアメリカ高層建築を創ったサリヴァンは、「形は機能に従う」というその言説と裏腹にゴシック的装飾モティーフを多用し、近代建築とゴシック復興の系譜を繙く上で看過できない存在である。自然との共生を謳った文筆家ソローもまた、代表作「森の生活」での家づくりの記述に原初的機能主義を認めることが出来る。へリングの言説と彼らの著作には複数の共通点が確認されたが、これについては更なる分析を要する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は研究期間中に二回ドイツに渡航し、各回十日程度の現地調査を行う予定であったが(2023年および2024年度)、円安による調査費用の高騰を見越し、現地調査は2024年度の一度に絞り、日数を二週間程度に延長して行うものとした。 2023年度の現地調査を延期したため、文献調査および一次資料の翻訳に徹することとし、対象も当初のへリングの著作から時間的に遡って、対象もアメリカ人のルイス・サリヴァンやヘンリー・ソローに広げた。 社会学に分類されるアルフレート・ヴェーバーの著作の解読と翻訳、および分析には、当初予定していたよりも多くの時間を費やした。社会学と美術史とでは研究手法が大きく異なること、その言説にヴェーバー自身の造語が含まれており難解に感じられたこと、更にはヴェーバー自身が提唱した「文化社会学」という分野が当時は新しく、かつ現在では消滅した分野であり特異な論理構造を呈していることなどが、その理由として挙げられる。 加えて、『西洋美術研究』21号が組む「美術とテクノロジー」特集に合わせて、ヴェーバーの講演録「文化表現と技術」の邦訳を作成し、解説を執筆することとなったが、これだけで翻訳と解説執筆を合わせて三か月程度を費やすこととなった。活字にする以上は高い完成度が求められるためである。
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今後の研究の推進方策 |
2024年4月から8月にかけては、前年に引き続きアルフレート・ヴェーバーの講演録「我々の時代の建築」の分析および翻訳を進め、並行して、フーゴー・へリングの著作の解析を行う。 2024年9月には二週間程度の調査旅行を行う。調査対象はガルカウ農場(ペーニッツ・アム・ゼー、ドイツ)、フーゴー・ヘリンjavascript:onSave();グハウス(ビーベラハ、ドイツ)、へリングの後継者と目されるハンス・シャロウンの諸建築(フィルハーモニー/ベルリン、シュミンケ邸/レーバウ)を中心とし、更にはベルリンのクンストビブリオテークおよび銅版画素描館でへリングの関連資料を閲覧する。 2024年10月以降は調査旅行で収集した資料を分析し、12~1月にかけて調査報告を纏める。 2025年2月からは再びヘリングの著作の解析に取り組み、「フーゴー・ヘリング論集」として刊行を目指すとともに、へリングにおけるゴシック受容についての考察を論文にまとめる。 並行して、ゴシック・リバイバルをドイツ語圏や英語圏等、おもにプロテスタント文化圏に特有の現象として捉える視点から「モダニズムにおけるゴシック・リバイバル現象」についてのグループ研究を立ち上げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間中2度行う予定だった調査旅行を、円安による旅行代金の高騰のため1度に変更し、2024年度に纏めて行うこととしたため、2023年度中に未使用の旅費がそのまま計上された。2024年度は9月に2週間程度の調査旅行を予定している。航空券と宿泊費で60万円程度の支出が見込まれる予定である。
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