研究課題/領域番号 |
23K00176
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
五月女 晴恵 北九州市立大学, 文学部, 教授 (50401154)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 中世絵巻 / 俵藤太絵巻 / 金戒光明寺本 / 福岡藩御用絵師・尾形守房 / 高階隆兼の様式 / 御影堂本 / 當麻寺奥院本 |
研究実績の概要 |
本研究は、金戒光明寺所蔵「俵藤太絵巻」の原本の中世絵画史における位置づけを明らかにしようとするものである。申請者は拙稿において、金戒光明寺本よりも、同本と姉妹関係にある福岡藩御用絵師・尾形守房模「藤原秀郷龍宮城図」の方が、原本の「かたち」を良く伝えることを明らかにしている。 そこで、今年度は、主に守房本に基づきながら同じ紙形の使用が認められる作品や、近似する描写表現を具えた作品を見つけることに時間を割いた。 その結果、新たに知恩院所蔵「法然上人行状絵図」と當麻寺奥院所蔵「法然上人形状絵図」にも同じ紙形が使用されていることに気付き、特に、當麻寺奥院本における知恩院本と画面内容が異なる場面に、13世紀の宮廷絵師系絵巻を源とする紙形が用いられていることに気付いたため、同絵巻の調査・撮影を當麻寺奥院において実施した。 また、「俵藤太絵巻」の原本には、高階隆兼工房作品と同じ紙形の使用が確認できるばかりでなく、隆兼が学んだと考えられる12世紀の宮廷絵師・常磐源二光長工房制作絵巻の紙形の使用も確認できることを拙稿において明らかにしているが、正安元年(1299)に制作された清浄光寺所蔵「一遍聖絵」の稿本をもとに14世紀~15世紀に制作された可能性が指摘される御影堂本の方に、常磐源二光長制作絵巻の紙形が用いられていることに気付いた。そこで、現在の所蔵先である前田育徳会において御影堂本の調査を実施、その成果を盛り込んだ論文の入稿を済ませ、2024年末に刊行予定である。 さらには、守房本の龍宮城場面の人物の服制が、宋代仏画の影響が指摘される13~14世紀の「仏涅槃図」の会衆に見出せることにも新たに気付いたため、該当する涅槃図の調査・撮影を実施するべく準備を進めている。加えて、「俵藤太絵巻」の原本の画面構成・モチーフに関する論文を執筆中であり、2024年度末に刊行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、調査を予定した作品の幾つかが、作品状態の問題等により調査実施が難しいことが判明する等、特別観覧の計画が不十分であったため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における調査対象作品は、絵巻・仏画・掛幅縁起絵などの多岐にわたる。そこで、主に以下の順番で特別観覧(調査・撮影)を実施する予定である。 2024年度は、金戒光明寺所蔵「俵藤太絵巻」の原本と同じ紙形の使用が認められる絵巻と掛幅縁起絵を中心に実施、2025年度は、福岡藩御用絵師・尾形守房模「藤原秀郷龍宮城図」と近似する描写表現を具えた仏画や掛幅縁起絵を中心に実施、2026年度は、主に所蔵先の御都合等により2024年度と2025年度に実施が不可能であった作品を中心に実施する。 尚、特別観覧の実施と並行して、調査対象作品の先行研究の検証も行う。また、各特別観覧実施後には、調査により得た知見を踏まえた上で、金戒光明寺本ならびに守房本と比較検討して共通点と相違点を明確にする。 加えて、「俵藤太絵巻」の詞書や典拠、成立背景に関する国文学分野における先行研究の検証を、2023年度に引き続き、2024~2025年度も取り組む。それらの検証結果をもとに、金戒光明寺本の原本の中世絵画史における位置づけを考察し、最終年度には、その成果を報告書あるいは論文としてまとめて公表する。
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